千夜千食

第144夜   2014年11月吉日

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四川の「酸辣湯麺」

辛さと酸っぱさが脳内でエキサイティングな像を結ぶ。
身体の芯が熱くなり、額には汗がにじむ。
調味料の合わせ技だけで、これほどの完成度といつも唸る。

 大好き四川はすでに四度目の登場である。海鮮焼きそば(第49夜)、山椒&唐辛子尽くしのランチ(第56夜)、翡翠麺(第90夜)に続いて、真打ちの酸辣湯麺である。四川でいちばん有名なのは、何と言っても担々麺であるのだが、私はこちらのほうが断然好みである。

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 見た目はあくまですっきり。具らしき具がほとんど乗っていないので、ある意味素っ気ないと言ってもいいくらい。ところがですね、たっぷりとスープを含んだ細めのストレート麺をひと口すすると、異次元の味覚世界がくっきりと立ち上がってくるのである。それも口中ではなく、脳内のスクリーンにその映像がシャキーンと投影される感じ。まずは辛さがストレートにアタックしてき、一本気な赤のビジュアルが映し出される。その色はあくまでもクリアで、小気味よい感じ。その後、得も言われぬ酸味がからんでき、単純な赤に深い緋のような色がどろどろと螺旋を描きながら複雑に混じり合っていく。と、同時に、黒胡椒が鮮烈な香りとともにスクリーンに黒い粒粒をサッとかけていく。深い赤に黒いドットが溶け、ドドド、ドドドと、やがて脳内トランスが始まるんである。ドクドク、ドクドク。心臓の鼓動がはっきりと聞こえ、額にはじっとり汗がにじみ出す。辛味と酸味の渾然一体。スパイシー&サワーの一味同心。もうただただ夢中で麺をすすり、スープを飲む。当然、すべて飲み干す。

 これね、夏にいただくのも好きなんだけど、少々やっかいでもあるの。だって、汗でメイクはくずれるし、洋服に汗がはりつくし。だから、冬のあたたかな日差しを窓越しに感じながら、この季節いただくのが正解なんである。(といっても、夏でも食べるけどね)