千夜千食

第152夜   2014年12月吉日

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再びファンキー中華「萬来園」

海老、蟹、白子、さらに素材がバージョンアップしていた。
ひと皿ひと皿がメインになり得る珠玉の中華。
予約を取るのに三ヶ月くらいかかった・・・。

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 第一夜でこの店を紹介してまる一年が経ってしまった。実は9月に一度予約チャレンジをしたのであるが、どうもお母さんの機嫌がよくないらしく、電話をしてもはかばかしい返事が得られないと友人がいう。女性の方があたりが柔らかいかもと、私から今一度電話してほしいとのことである。早速、電話したのだが、やっぱり、あかんのである。どうも、お父さんと喧嘩をしているようである。それもそうとう激しく。で、その腹いせにお父さんに聞こえるように客を断っているのではないか、という推量もあながちはずれてはなさそうである。やっぱりこの店はファンキーなのである。完全個人経営であるから、家庭内のいざこざがしっかり店に持ち込まれ、予約すら取りにくい状況をつくっているのである。だがあの味に魅了された者としては、どんなにつれなくされても、突慳貪に対応されたとしても、お父さんのあの味が恋しいのである。

 友人が再チャレンジしてくれ、ようやく12月の予約が取れたのであるが、やはり様子が今までと違うという。お母さんの愛想のなさがどうもマックス状態にあるらしい。お父さんとの喧嘩が長引いているのだろうか。ま、行ってしまえばなんとかなるでしょう。

 一年ぶりである。今まで二回とも貸切状態の恩恵にあずかったのだが、今回は我々を入れて3組である。さて。お母さんは普通である。いや、むしろ、愛想がいい。あれは何だったんだろう。ま、お父さんと仲直りして円満ならば、めでたし、めでたしであるけれど。

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 まずは、さんまを燻製にしたものが出された。茴香と干しエビで香りづけされているちょっと不思議な味。前菜はいつものように大皿に少しずつ盛られている。これがまた瓶入の紹興酒によく合う。ちびちびとやりながら、お父さんのプレゼンテーションを聞くのだが・・・今日は凄いぞ。アオリイカ、車海老、兵庫の牡蠣に、白子、蟹・・・もちろんどの素材もとびきりの一級品である。

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 モロッコいんげんをジャっとXO醤で炒めたの。これは前回もいただいたが、何気なく炒めだだけの野菜がこれほどの味になるとは、と心の中で唸る。湯葉とマコモダケの煮込みは、湯葉のとろとろ具合が何ともいえずやさしく、そこへ絶妙に歯ごたえを残したマコモダケの食感がからみあう一品。黄ニラはいろいろお父さんのプレゼンがあったけど、やっぱり卵とチャッと炒めるのをリクエストした。前にも同じのをいただいたけど、この組み合わせは盤石。アオリイカはシンプルに葱ショウガ風味で。イカの食感が素晴らしい。そして本日のメインは車海老。調理する前に見せてもらったけど、まだピチピチと跳ねている。これを一気に炒めるのである。シンプルな料理ではあるが、素材のよさを活かしきるお父さんの絶妙な火加減なくしてはこの料理は成立しないと思う。唐辛子とショウガ、にんにくのバランスもさすがとしか言いようがない。兵庫の牡蠣はスパイシーなスープ仕立て。こちらも立派な牡蠣である。瀬戸内の海のエキスがぷりぷりの身にたっぷりとつまっていた。再びリクエストしたのは、マコモダケを和牛で巻き揚げた一品。やはりこれもいただかないとね。この味、もはやこちらの定番になっている。さらに本日は白子があるという。それを山ごぼうやうどと一緒に天ぷらにして、上から葱ソースをかける。うーん、白子をこのようにしていただくのは初めてである。悪くない。というか、あの白子も手をかけられるとこういうふうに変貌するのかという驚きがある。キノコの炒めものは食感の微妙に異なるキノコを手早く炒めた一品。ヤナギ松茸のシャキシャキ具合に魅了される。新種のキノコっていろいろあるのね。そろそろシメなければと思っていると、豚の角煮がやってくる。いや、正確には勝手にやってきたのではなく、注文しているからやってきたのではあるけれど。シメは蟹チャーハン。立派なずわい蟹をその場でむしり身をとって具にするという贅沢な一品である。

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 蟹チャーハンがあまりに旨く、野良猫のように(心の中で)唸りながら夢中で食べていると、連れが他の二組に向かって「みなさんもよろしかったらひと口いかがですか」と言う。その瞬間心の中で「チッ」と思った私。やんごとなき淑女であれば、連れに続いて「本当に美味しいですよ。どうぞ、ご遠慮なく」とさらに後押しするのであろうが、意地汚い私は完全無視。むしろ心の中で「なんてこと言うんだ!」と怒りを抑えていた。もちろん、他のみなさんは、それじゃあいただきます、というようなことを言い出す図々しい人たちではなかったので、私の蟹チャーハンは事なきを得た。

 それにしても。美味しいものを人々とシェアしたいと考える友人は立派だとは思う。そこに素直に賛同できなかった己の小ささと食い意地の張り方がとても悲しかったが、どうしようもない。それほど、蟹チャーハンは美味かったのである。

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 今回も、全13品。うーむ。ふたりではこれが限度であろう。あ、デザートの杏仁豆腐もここのをいただくと、ちょっと他の店のが食べられなくなると付け加えておこう。