千夜千食

第153夜   2014年12月吉日

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歌舞伎座「吉兆」

30分しかない幕間に慌ただしくいただく松花堂。
せめて後10分あればもう少しゆっくりできるのに
と思うのはきっと私だけではないだろう。

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 歌舞伎座の幕間でゴージャスに食事するなら、やはり吉兆であろう。昔は事前に頼んでおけば、桟敷席に幕間の5分ほど前になると持ってきてくれていた。二席ずつ個室仕立てになった桟敷席の扉をあけるとちゃんとお盆を置けるスペースがあって、そろそろ幕間という頃合いに耳をすませているとぎいいと遠慮がちに扉が開き、料理を置いていってくれるのである。幕間が始まると同時に、その料理を桟敷のテーブルの上に置き食事を楽しむ。ちょっとしたお大尽気分が味わえるとあって、桟敷で観劇するときはよく頼んだものである。

 ところが新しくなった歌舞伎座では、この桟敷席への出前というか配達を中止してしまった。いろいろ事情があるのだろうが、とても残念である。だから、吉兆で食事がしたいときは、三階まで移動しなければいけないのである。これが非常に面倒くさいし、最近の幕間は最大でも30分しかないことが多いので、往復で5分は時間をロスする。化粧室にも行きたいし、煙草の一服もしたい。となると、実質の食事時間は20分である。

 幸い、早食いが常であるので、次の幕に間に合わないということはないのであるが、それでもやはりあせる。時計をにらみながらの食事は忙しないし、せっかく松花堂弁当をいただいているのに、なんだかもったいない気がしてならないのである。

 事前に予約するシステムなので(当日でも席が空いていれば対応してくれる)、幕間のタイミングに合わせ料理を仕上げてくれ、自分の名前の札が立ててある席に行けばすぐ食べられるようにはなっている。だが、歌舞伎観劇はお年を召された方も多い。ゆっくり懐石を楽しみたくても、これではちょっと時間足らずという感じだ。この日も私の隣には老夫婦らしきカップルが座っていたが、とうてい次の幕には間に合いそうにないスピードだった。いくら松花堂とはいえ、そこは「吉兆」であるから、本格懐石風の四品にプラスして、お椀にデザートまでついている。メニューはこれ一品だけである。が、もう少し量を減らすとか、メニューにバリエーションを持たすとか、30分で楽しめる工夫をしてほしいと思う。

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