千夜千食

第161夜   2014年12月吉日

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NY鮨 「sushi of gari」

あっと言う間に一年が経ち、
今年は、なんと着いた日の夜にやって来た。
何しに、ニューヨークに行ってるんだか(笑)。

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 着いたその夜に、さっそくの鮨である。一年ぶりのガリさんの鮨(第8夜参照)なので、これはしかたがない。こちらの空いている日とガリさんの都合が合うのが、滞在期間中はこの日しかなかったのである。今は客のリクエストに応じるときだけ、店に出てくれるのだそうだ。今夜は、私のためだけに出てきてくれたと聞くと、かたじけなさに涙こぼるる、である。当然ガリさん前カウンターは私ひとりである。本当に完全独り占め状態なのである。

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 せっかくなので、鮨の前にガリさんのツマミを堪能することにした。本日のスペシャル日本酒は、写楽の純米、初しぼり。会津若松の旨酒、堂々たる一升瓶である。ガリさんが日本に帰るたびに、抱えて帰ってくるそうな。スターターは、端正な桐の台に並んだ刺身三種。熊本の牡蠣、トロ、鯵である。これは、まったくもって普通の刺身である。こういうのから始まると、ここはどこ?という気になってくる。しかし、二品めで、ああsushi of gariだと実感。

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 この一見すると豆腐餻のような物体はブリである。脂の乗った舞鶴のブリをサイコロ状に切り、酢みそに鶉のたまご、わさびを加えたソースをかけている。このソースがブリの脂をマイルドにし、こたえられない旨さを生んでいる。寒ブリをサイコロ状に切り、こんなソースをかけるという発想自体が、きわめてユニークであるし、普通は勿体なくてできないであろう。なんと大胆で贅沢な一品であるか。ふっふ、わざわざ来た甲斐があったと心の中で呟く。次なる一品は、ミル貝をなんとアンコウの肝のソースで和え、ポロ葱を白髪葱風に切り揚げたものをまぶしている。口に含むと、ミル貝のコリコリとあん肝のまったりさに、カリッとしたポロ葱の食感が合わさって、恐るべき三重奏が始まるのである。うふふふふ。それを写楽で流しこむ。あら、これは毛蟹ね。と思っても、ただの毛蟹じゃありゃせんぞ。バターと軽くソテーして、とろろ昆布のパウダーと塩を混ぜたものを振りかけた一品。続いては、ホタテに梅胡瓜マヨネーズを和えたもの。変化球の連打である。この香ばしそうなのはスコットランドのトロサーモン。ひと晩漬けこんで、とろろ昆布パウダーに醤油を混ぜたものを塗って軽く表面を炙っている。青花のうつわに盛られているのは、ずわい蟹を雲丹ソースで和え、塩昆布を刻んだものを乗せた一品。ずわい蟹VS雲丹だなんて。こういうツマミ。あらかじめ考えておくのもあるけれど、ほとんどがその場でひらめいて、つくるのだという。まったくもって、名人芸である。

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 一年ぶりのガリさん流をツマミで堪能したところで、そろそろ握りに行かなくっちゃ。まずは、平目の昆布締め。白板昆布がくるりと巻かれている。これはきわめて正当派。トロの上には刻んだタクアンが乗っている。トロタクの巻物は好物であるから、これはもう一度リクエストしたいくらいハマる。トロとタクアンという組み合わせって、どうしてこんなにマッチするんだろう。残り物のトロの切れっ端にその辺にあるタクアンを混ぜて巻いてみたら、これがなんと合うことか。てな具合で誰かが発見したのだと思う。お江戸の時代には、マグロといえば赤身しか食べず、脂の多いトロは捨てていたと聞くから、脂っこい下世話な魚を少しでもさっぱりと食べるために庶民の知恵として生まれた組み合わせだったのかもしれない。が、それが今は、きわめて贅沢な食べ方になっているのが面白いところである。軽く締めた鯖には胡麻を擂りおろしたソースが乗っている。ヤリイカは芸術的な切り目を施され、上のグリーンはブロッコリーのソースである。鯛の上には土佐酢のジュレを切ったもの。黒胡麻が振られている。雲丹にかかっているのはイクラのソース。軽く焼き色がついているのは太刀魚のバターソース。マグロの赤身には豆腐を裏ごしたソースがこんもり。おっと、この三品はネタの記録がないのだが、察するところ、赤身の上にトマトを乗せたものと、鯵らしきものには、何か揚げた短冊が乗せられている。そしてこれはブリだろうか。昆布をパリパリにしたものがトッピングされている。最後の鮨は海苔の唐揚げしたものを台にし、そこにユッケ風にしたマグロを乗せた一品。牡蠣のグラタンをいただいて、今年は全19品。やっぱりツマミから始めると、握りはそんなには食べられない。が、ガリさんのツマミは握り同様に強烈なインパクトがあるものばかりである。

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 ああ、今年も無事に一年が終わり、ガリさんのお鮨を食べに来ることができた。デザートまでしっかりいただきつつ、しみじみと幸せを噛み締めた滞在初日の夜であった。