千夜千食

第167夜   2014年12月吉日

  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px

DOMINIQUE A「クロナッツ」

初体験までなんと一年かかった。
ソーホーの店ではいまだ行列ができているらしい。
噂のクロナッツ、超リッチな美味しさだった。

th_IMG_2633

 一昨年、ニューヨーク行きの機内誌で目にしたクロナッツ。その記事は、すでに超人気で朝の6時から並ばないと買えないとか、代行で並ぶビジネスが流行っているとか、店を開けたら15分で売り切れるとか、そんなことを伝えていた。ニューヨークの友人も食べたことがないというのだが、ひとりヘアメイクのタマミちゃんだけは、一度撮影現場で口にしたことがあるという。評判どおり、とても美味しかったらしい。そして、手に入れるために朝早くから並ぶのは本当で、並んで買った人が一個100ドルで転売しているらしいという噂もあるようだ。一日の販売数は限定200個。

 こういう話を聞くと、なんだかメラメラとチャレンジ魂のようなものが燃えてくるのである。だけど、朝の6時にSOHOのSpring Streetまで行くだけでも、気が遠くなりそうである。年末である。その時間帯なら気温は間違いなく氷点下であろう。たかが、ドーナツのために、それも一人二個までしか買えない制限がついているようなものをわざわざ買いに行くなんて。ううむ。無理である。

 しかし、手に入れるのが難しければ難しいほど燃えるのである。だからといって1個5ドルのものに100ドル出すほどの根性もないし、そこまで酔狂でもない。するとタマミちゃんが、一ヶ月前にインターネットで指定した日に買える整理券のようなものがあるらしいとの情報をくれた。それに、来年また私がくる頃にはフィーバーは収まっているだろうから、来年のお楽しみにすればと言う。ま、手に入らないものはしかたがない。そうして、クロナッツは一年間のおあずけとなった。

 クロナッツとは、三ッ星フレンチ・ダニエルのパティシエだったドミニク・アンセルが自身の店で販売しているスイーツで、クロワッサン生地を揚げたドーナツの中にフレーバーたっぷりのクリームをはさんだもの、であるらしい。外はクロワッサンのようにサクサク、中はクリームがとろりと溢れだす魅惑の味わいで、一度食べるとその味にハマってしまうという悪魔のスイーツ、であるらしい。

th_IMG_2626th_IMG_2628

 一年後の今年。な、なんとタマミちゃんがわざわざ並んでくれ、ついに念願のクロナッツを食することができた。ドミニク・アンセルのロゴが入ったこの美しいイエローのパッケージを見よ。開けると中にはコーヒーグレーズかしら、美味しそうな色がコーティングされ、生地のまわりにはパウダーシュガーがまぶされている。ナイフを入れるとサクっと切れて、うん、やっぱり断面は完全にクロワッサン。そして薄い層の中にたっぷりのカスタードクリームとジャムがはさまれている。

th_IMG_2631

 カリカリっ、サクっ。ふんわり、そして、とろ〜り。

 この異なる食感と、クロワッサン生地と油とクリームが奏でるリッチなテイスト。ひと口でノックアウトされました。たしかに、美味しい。さすがに、私はドーナツフリークではないので、中毒にはならないだろうけど、もしエルビス・プレスリーが生きていたら店ごと買い占めるだろうと思った。

 タマミちゃん、本当にありがとう。

◎追記

 2015年6月、ドミニク・アンセルが満を持して日本に上陸した。お店があるのは表参道。表参道ヒルズの近くである。しばらくは、長い行列が続くであろう。