千夜千食

第177夜   2015年1月吉日

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金沢おでん「大関」

金沢には独特のおでんがあるという。
その名も、「かにめん」という極上のタネ。
いや、金沢歴けっこう長いけど、これは知らなんだ。

 「かにめん」。

 ううむ、初めて聞く単語である。「かにめん」の「かに」は、どう考えても蟹であろう。めんとは、何か。金沢では、カニ漁が解禁になると香箱カニの殻に、カニから取り出した身や内子、みそをきれいに詰め直し、蒸し、それをおでんのネタとするのである。つまり、「めん」は面ということなのだ。

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 ハイパー企業塾の金沢合宿をいろいろお世話くださった方から幹事のW氏が仕入れた貴重な情報である。鮨はもちろん旨いに決っているのだが、金沢に来たらおでんもおすすめですよというサジェッションがあったのだと言う。そこで、塾終了後、まだ電車の時間があるという有志の面々と後帰りの連中で連れ立って、教えてもらった「大関」という居酒屋に繰り出した。が、しかし、予約でいっぱいで入れない。しかたなく、別の店に入ったのだが、ふっふ、私はまだ次の日夕方までは時間がある。5時から開くと聞いたので、翌日帰る直前に寄ってみた。

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 ひとりだったので、すぐさまカウンターに座ることができた。この手の居酒屋にひとりで来ることはほとんどない。もしかしたら、初めてかもしれない。メニューを見ると、ここはおでんも出すが、海鮮もどっさりあるではないか。寒ブリの食べ納めとばかりあるかどうか聞いてみると、がんどならあるという。かんどはブリの小さいのである。注文する。かぶら寿しも当然ある。注文する。あらら、鱈の白子もあるじゃない。注文する。お酒は何にしようかな。「すみません、日本酒は何がありますか」と聞けば、女将さんらしき人が、「ウチは大関しか置いてません」というではないか。そして、ハタと気づく。店の名前が「大関」なのだ。そりゃあ、大関しか置いてないわな・・・。ようがす。大関、上等だ。こういう店で飲む大関、それはそれで悪くない。

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 さてと、海鮮ものを注文した後、おでんがぐつぐついってるコーナーに見に行き、噂の「かにめん」を発見した。センターで鎮座している大きな丸いのは車麩である。その車麩の向こうに、「かにめん」がいる。左手前にも隠れてる。それにしても金沢のおでん、見た目がド派手で楽しいな。バイ貝も有名らしいし、銀杏が入っているのも珍しい。いろいろ悩んだ挙句、「かにめん」、豆腐、牛筋、平天を注文した。「かにめん」はさすがにスペシャル価格でたしか1200円くらいだったと記憶している。おでんとしては高いが、香箱蟹だと思えばリーズナブルともいえる。お味はというと、ううむ、身と内子、みそが渾然一体とおでんだしで煮こまれており、カニの高貴な香りは消えているのだが、おでんだしのファンキーかつ庶民的な味わいにカニがなじんでこれはこれで美味である。お箸で詰められた身を少しずつ殻からほぐしながら食するのである。合間に大関。またかにめん。で、大関、の繰り返しである。

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 こんな贅沢なおでんダネがあるなんて、ほんと知らなんだ。ま、想像するに、冬のあいだ茹でガニやカニ酢ばっかりじゃ飽きるので、ちょっとおでんに放り込んでみたらこれはこれでなかなか旨いやないか・・・てなとこから生まれたんだろうか。香箱ガニを一生懸命ほじほじするのは手間もかかるし、面倒くさい。それがあらかじめほぐされ殻に詰められた「かにめん」は、寒い冬にはこたえられないご馳走だろうと思う。

 そして、旅先の居酒屋で、その土地でしか食べられないものをそこの地酒できゅっと飲る。(今回は大関であるが・・・)今まで、さすがにひとりで居酒屋へはよう行かんかったが、もう大丈夫である。こういうのに味をしめると、旅も、普段も、もっともっと楽しくなりそうだ。