千夜千食

第195夜   2015年2月吉日

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南森町「すし芳」

社員の結婚を祝しての鮨ディナー。
キャラクターのあるコピーライターには
ここの大将のユニークな遊び心を教えてあげたいと思う。

 私の下で一生懸命コピーを頑張ってくれている歩ちゃんが結婚した。とくに式や披露宴の予定はないと言う。ま、若いふたり同士、いろいろこれからの計画もあるだろうし、ウェディングドレスを着るのが憧れだったというような子でもない。すでに一緒に棲んでいたというから、日々の生活の延長上のごく自然な流れで入籍し、浮き足立たずに普段と変わらず生活している。せめて美味しいごはんでもと思い、「鮨とフレンチと和食と、あと何でも好きなところでいいけど、何がいい?」と聞けば、迷わず「鮨!」と返って来た。よろしい。鮨ね。いい趣味だ(笑)。

 そうなると、会社の近所ではあるがここだ。南森町のアバンギャルド極上鮨(第30夜)。産休から復帰し頑張ってくれている同世代の美和ちゃんも誘って、三人で出かけることにした。

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 祝杯はもちろん日本酒である。呉の土井鉄という純吟しずく。土井鉄也という杜氏の名を取っており、蔵に湧き出る「宝剣名水」を洗米から仕込みまで使い、袋に詰めたもろみのしづくを瓶に集めた名酒である。これで乾杯をし、しばし歓談していると、目の前に雲丹の箱が並べられる。北海道のムラサキ雲丹。海の滋養をたたえた丸々とした姿、惚れ惚れする。これは、雲丹から始まるよという合図である。いきなりかよ。よろしい、受けて立つよ。まずはシンプルに漆の匙に盛った雲丹。これを大きな口をあけ、すうっと流し込む。yumyum,yummy。ふふ、馬鹿馬である。で、今度は徳島の赤雲丹を海苔巻きにしてくれる。あるようでなかなかない雲丹の海苔巻き。これを初っ端に出してくる大将は、あいかわらずの傾きぶり。

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 と、今度は菜の花が出され、またしても、え、え、と驚く。お口の中を春の息吹でさっぱりさせたら、平目のお造りである。大分で穫れた4キロ級。もう縁側のトコなんてコリコリ、ゴリゴリである。とっくに空いた土井鉄の次は、純吟の日高見。芳醇辛口と銘打っているように、これは鮨のために仕込まれたのでは?と思うくらいよく合う酒である。そして何気なく出されたこの物体は、紛うことなき大好物のアレであるが、4キロ級の平目にもこんな旨い部位があるのである。鮟鱇よりもあっさりしていて、これはこれで日高見が進む。続いて、炙り、握りと平目カルテットが続く。ひとつの魚を手を替え品を替え。ほんま、この編集スタイル、たまりませんな。

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 と、今度は、色鮮やかな四角いひと品。これは甘エビを冷凍してカルパッチョ風にしたものである。少しずつ溶けていくのを味わうのである。その向こうにあるのはケジャン風のたれと和えたもの。いちばん奥のは海老を粽風に巻いている。洋・韓・和スタイルの海老三変化。楽しいなあ。

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 と、シンプルな白磁に入ってまたまた大好物のアレがやって来る。白子である。別名雲子。いいネーミングである。ふわふわまったりの雲を味わうのには、東北泉純米しぼりたて。ふっふ、生には生。そして雲子を軍艦仕立てにしたお鮨。馬・鹿・馬。

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 こちらの酒器はすべてバカラである。そのほとんどがアンティーク。酒が変わるたびに、グラスも変わり、舌だけでなく目も楽しませてくれるのである。グラスのためにパリの蚤の市とかに出かけるという大将、そのこだわりはもはや変態の域に達している。そういう気質を持ってるからこその変態鮨。毎回、どんな編集がなされているのか、まったく目が離せないのである。

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 その変態ぶり、極まれり、というのが次に出た。牡蠣であるが、これに合わせる日本酒は純吟の天遊琳。なんとラベルには牡蠣限定・酸度三と書かれているではないか。牡蠣のためだけに造られた日本酒。キレのある味わいは、牡蠣にベストマッチ。蔵元は三重県四日市。ううむ、あの的矢牡蠣の産地に近いぞ。これも変態がつくったに違いない。変態の道は、変態、ということを実感する。そして、生をつるりといただいたら、今度は手を出してと言われ、こっくりした煮きりを塗ったお鮨が掌に乗せられる。旨いなあ。そして箸休め(お箸使ってないけど・・・)は福岡の蕾菜。コロンとした可愛らしいかたちでコリコリした食感がある。

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 続いてはマグロである。高知の甲浦で穫れたヤツ。なんと美しい赤身であろう。日本酒は開運。純米の祝い酒。まこと、本日にふさわしい銘柄である。合間にシラスなどをいただきながら、今度は握りを。大将の酢飯は、マグロとの相性が抜群である。祝いの席であるから、赤の後は白である。アオリイカに大和芋をおろしたのがかかってる。そして海苔巻き。そろそろオーラスに向かい始めている。と、今度は軽く炙った鯖。これは千葉で穫れたのだそうだ。鮨ネタいろいろ好きなものはあるが、新鮮な鯖ほど旨いものはないと改めて思うほどの状態。脂には山葵がまた合うのである。日本酒は武勇酒蔵の純吟しぼりたて。こっくりした柔らかみのある旨酒である。軽く〆た握りも悶絶しそうになるほど旨い。ふうう。のれそれの酢みそ和えで一服したら、焼穴子の出番である。生がずーっと続いたから、ラストは香ばしい穴子。この順番はやはりよく考えられていると思う。しかしラストとはいえ、軽く海苔で巻いたのも出してくれる。スペシャル玉子焼きでフィニッシュかと思うでしょ。

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 まだまだあるの。小柱の酢みそ和え。また、生に戻ってしまった・・が、その後はたいらぎを炙って海苔でくるりと巻いたもの。このへんでそろそろかと思っていると、なんとまたマグロであるが、これは那智勝浦産。この脂まみれのところを大胆ふんだんに使って巻いてもらうトロ鉄火。歩ちゃんのお祝いと言いながら、実は自分がいちばん楽しみ堪能したかも。でも、自分が大好きなお店で、お祝いをしてあげられたというのがとってもめでたい。

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 本日はこんなデザートまであった。ももいちごという大きくて立派ないちご。徳島の佐那河内というところで生産されている幻のいちごで、大阪にしか入ってこないのだそうだ。中は白くて、酸味が少なく、びっくりするくらい甘い。もう一個食べていい?と思わず二個いただいてしまった。

 あいかわらずのカブキぶりで、変態道まっしぐらの大将。
 いつまでも、我が道を行ってほしい。