千夜千食

第226夜   2015年5月吉日

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朝ごはん「豆腐捲と抄手」

チャレンジしてみたかった朝ごはん。
ホテルの道渡った向こう側にある小さな市場で
台式ブレックスファストの素朴な美味しさに心が洗われる。

 台湾は朝ごはんもいいと言う。ホテルのブッフェをパスして、地元の市場を探検することにした。ホテルのエントランスから、すぐ左に曲がり、信号を渡った向こう側に光復市場という看板が見えている。チェックインしたときから気になっていたのだが、ホテルサイドの近代的なエリアと対照的にそこはいかにもオールド台湾とでも言うべきレトロな風情が漂っている。

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 素食包子というキャベツの入った野菜まんが有名な店の前でしばし悩むが、テイクアウト専門のようで食べる場所がどこにもない。さすがに、立ち食いはちょっと恥ずかしい。しばらく歩くと、周家豆腐捲という赤い看板の店があった。イートインできる。豆腐捲というのもヘルシーな感じがするし。よっしゃ、ここに決めよう。

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 テーブルに座るとすかさず日本語メニューを持ってきてくれる。こういうのはほんま有難い。看板商品というおすすめに従って、豆腐捲と豆漿(とうじゃん)を注文する。豆漿は豆乳を飲みやすくした台湾の定番ドリンク。朝ごはんには欠かせないらしく、いろいろ具を入れても美味しいらしいのだが、まずは素直にストレートで飲むことにした。日本の豆乳ほど濃くなく、さっぱりして飲みやすいが、そこはかとなく豆乳の風味は残っている。こんなの毎日飲んだら、健康になるよなあと少々羨ましく思う。豆腐捲にかぶりつく。わあ、なんてやさしい味なんだろう。パリッときつね色の焦げ目がついた皮の中には、炒めた豆腐、キャベツ、卵、春雨がぎっしり詰まってる。薄めの塩味の加減が、素朴でまたよい。なんだろうな、この味の感覚。たとえていうなら、おばあちゃんが作ってくれたような懐かしさに満ちている。こういうの、長らく忘れていたような気がする。

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 雪菜を包んだまんじゅうにもチャレンジしたかったが、せっかくなのでもう一軒くらい回りたい。湧き出る食欲を抑えつつ、また市場を物色する。光復市場はさほど広くはないので、歩いているうちに裏手の方へ出た。目の前に一軒の店がある。脚のきれいな若い女の子が店先で麺や餃子らしきものを茹でている。うん、ここは絶対美味しい。そんな根拠のない確信を持つ。勘である。温州鮮饂飩と看板には書かれている。席に座って、メニューを指差す。麻醤鮮肉紅油抄手。麻醤というのはわかる。鮮肉はきっと豚のことだろう。紅油は辣油、抄手はワンタンのことと見当をつけた。運ばれてきたのは予想通り、ワンタンである。上に豚肉のミンチを巨大な団子状にしたものが載ってい、醤油と辣油がかかっている。店内の棚にはお惣菜を乗せた小皿もあったので、美味しそうな色に染まった卵と高野豆腐のようなものと、胡瓜の漬物風の二品をとった。

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 大正解である。

 麻醤鮮肉紅油抄手が運ばれてきたとき、一瞬くどいかなと思ったが、つるりと気持ちよく食べられる。合間に胡瓜を口に放り込むとちょうどいい案配である。そして、卵と豆腐の煮しめがまた最高なのである。なにしろ、色がいい。出汁をたっぷり吸ったこの何とも言えない色を見よ。ずどんと質量のある豆腐をしっかり水抜きしたようなものを煮しめているので、ほんと、みっしりと中身が詰まってい、弾力もある。出汁も見た目の色ほど濃くなく、噛むと口中に滋味が広がっていく。 

 唸りながら、完食した。台式ブレックファスト。ホテルで食べるなんてもったいない。