千夜千食

第247夜   2015年6月吉日

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福山「メゾン・ドゥ・シェフ」

高校の三年間、修道院のように厳しい寮で生活していた。
その同期の懐かしい面々に会うため
泊りがけの同窓会に久しぶりに出かけることにした。

待ち合わせは、広島県福山市。尾道へは何度か行ったが、福山は初めてである。高校が岡山県倉敷市にあり、当時実家が福山の子たちも多かったので、地名自体にはなじみはある。が、考えてみれば一度も行ったことがないのに今回気づいた。なので、ちょうどいい。夜の食事をするレストランに集合で、その後みんなで福山に一泊し、明日は鞆の浦あたりを観光して夕方解散であるという。こういうイベントでもないと、福山に来ることなんてない。

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午後6時に「ビストロ・メゾン・ドゥ・シェフ」というフランス料理店に集合である。時間きっかりに店の前に立ち、ドアを開けると、ものすごい音が耳に飛び込んできた。いや、これは音というのではなく、ノイズという種類のものだろう。おばちゃん連中が口々に騒ぎ立てている凄まじいノイズ。店内にはわんわんとその雑音がハウリングしている。思わず、周りを見渡すが、他に客はいない。貸切だと聞いて、ホッと胸をなでおろす。

いや、とにかく、おばちゃん連中が集まると喧しいのなんのって、いやほんま、これ、ほとんど公害である。貸切にした幹事の良識は評価してあげなくては。こんなの貸切じゃなかったら、どんなに迷惑であろう。しかし、貸切とはいえ、この騒音を聞きつつ料理をつくるシェフや給仕する人もたまったものではないなと同情する。

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そのうえ、全員がおしゃべりに夢中で、料理をゆっくりと味わうどころではない。心からシェフに同情しつつ、まずは前菜に手をつける。マグロ、サーモン、アボカドのサラダ。もうひと皿は、生ハムと葉野菜のサラダ。ブラッドオレンジの甘酸っぱさが、生ハムの塩加減を引き立てる。フォワグラのステーキは、可愛らしいピーターコーンと。魚介の皿は、貝柱と白身に色鮮やかな二種類のソース。メインは、ミディアムレア状態が見た目にも美しいローストビーフ。びっくりしたのは食事である。そういえば、パンが出ていないなと思っていたのだが、シメの食事はなんと炊き込みごはんと若布とお揚げのお味噌汁。うん、いいよ。こういうの。ごはんにはうまい具合におこげも混じってる。デザートは、クレマカタラーナ風のプディング。

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こちらのシェフは、大阪、広島、東京で修行した後、子供時代を過ごした福山で独立開業。地元の素材をストレートに生かすことで、フランス料理の計算された味と多くの先輩方から学んだ味を伝えることを目指しているという。今、地方都市でこういったUターンやIターンで頑張っている店が増えている。良い傾向だと思う。

シェフ、とっても美味しかったですよ。うるさくて、ごめんなさい。