千夜千食

第254夜   2015年7月吉日

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萩「すし喜&がんこ菴」

鮨屋でちょちょいっとつまんで、蕎麦屋で〆る。
昼間っから、二軒ハシゴするちょっとした贅沢。
気ままなひとり旅だし、誰も見てないもんね。

 前乗りも居残りも大好きである。若い頃から、仕事でどこかに行くとなると、万障繰り合わせ、思いっきり繰り合わせ、できるだけ仕事が金曜とか月曜になるよう極力調整し、前後の土日も無駄にはしなかった。おかげで、さまざまな土地を訪れるだけでなくそれなりに深く知ることができ、仕事だけだと巡り会えないような人や場所ともご縁ができた。これはもう私の財産といってもいいのだろうと思う。

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 少し前から文楽にも熱中しており、年に一度山口県の長門市で開催される文楽に去年に引き続きやって来た。去年は長門湯本という温泉町に泊まったこと(第106夜)で、驚くべき懐かしい出会いがあった。今年は、こちらも30年ぶりぐらいになる萩に行くことにし、前から一度泊まってみたかった旅館を予約した。前日は東京都内でイベントに参加してたので、東京から飛行機で山口空港を経由して萩にやって来た。

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 ちょうど昼時である。旅館にいったん荷物を預け、目星をつけておいたお鮨屋さんを予約し向かう。その土地で愛されているであろう地元の鮨屋。入口からして、生活にとけ込んでいるような雰囲気に満ち満ちている。こんにちは。ガラリと戸を開けて、カウンターへ。

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 今日の美味しい魚を適当に刺身で盛り合わせてもらう。白身だけでも四種類という贅沢さ。なにしろ目の前は日本海ですからね。鯛にヒラメに、縁側。マグロとカンパチは脂まみれの状態で口の中ですーっととけてゆく。長門峡という地元の生貯蔵酒をちびちびと飲りながら、天麩羅と茶碗蒸しも言う。寡黙な大将が黙々と魚をさばいて、次々と皿を出してくれる。旅館に泊まっていなければ、夜も絶対に来てみたい、そう思わせる良い気に満ちた店である。握りを食べたくなるのを我慢してお勘定してもらう。まだまだ夜もあるからね。

 店を出てほろ酔い気分でぶらぶら歩く。高杉晋作の誕生地のお屋敷が一般公開されているのでお邪魔する。この辺りはいわゆる萩の城下町で、碁盤の目に区画され、中・下級武士の屋敷が建ち並んでいた場所だという。今でもその町筋がそのまま残っており、白壁やなまこ壁、黒板塀などの町並みを歩くだけでも往時が偲ばれる。

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 ぽつぽつと雨が降って来た。どこかで雨宿りをと喫茶店を探しているうちに、碁盤目から少しはずれ、大きな道に出た。その道沿いに「がんこ菴」という何やら古めかしい蕎麦屋が出現した。鮨屋で炭水化物を食べていないし、蕎麦ぐらいだと入るだろう。迷わずのれんをくぐった。

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 十割そば、細切り。うーむ、魅力的である。細いなら、じゅうぶん食べられるであろう。調子に乗って大海老天盛りそばを注文した。一時間ほど前にも海老天は食しているのだが、私以外は誰もそのことを知らないのだ。堂々と注文する。普通、十割蕎麦といえば、色が黒くて太い田舎蕎麦をイメージするのだが、こちらのは細切りで蕎麦本来の味と香りが引き立つ本格派。あっという間に平らげた。

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 古民家をそのまま蕎麦屋に改装した店内は、気取らない雰囲気。裏の縁側から眺める庭もほどよく手入れされていて落ち着いてくつろげる。NHKの大河ドラマ「花燃ゆ」はここ萩が舞台となっている。ロケ隊もしばらく滞在したのであろう。出演した俳優さんたちの色紙が壁に貼られていた。

 散策していてこういう店と巡り会うのが、旅の醍醐味。気ままなひとり旅の特権だ。