千夜千食

第240夜   2015年5月吉日

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仙台牛タンの店「喜助」

初めて食した仙台名物・牛タン。
昔ながらの製法で、丁寧に仕込み、熟成させ、炭で焼く。
そのサクッとジューシーな味わいに、なるほどと納得。

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 民藝協会全国大会二日目。午前中は被災地を訪ねた。宮城県は津波の被害だけで阪神淡路震災を上回る犠牲者を出したという。仙台郊外には、仙台平野と呼ばれる平坦な田園地帯が広がっており、その沿岸部にあった主な集落が被害にあった。自らも津波で流されたというガイドさんが語る話には災害時の教訓がいっぱい詰まっており、阪神大震災のことも思い出しつつ、他人事ではなく真剣に耳を傾けた。流された家々の跡地はそのままになっており、いかに津波被害が凄まじかったかを想像させる。荒浜という地区では、小さな鳥居がポツンと残されてい、そのすぐ隣には観音様が立っていた。この光景の中にいるだけで、胸の奥の方がヒリヒリとし、視界がにじむ。現地に行かないと感じられないことはたくさんあるのだと改めて思う。日和山という小さな山には、津波で流されてしまった閖上湊神社と富主姫神社が祀られてい、鎮魂の場となっている。小高いこの山のてっぺんから、被災地一帯が見渡せる。ポールに黄色いハンカチをつけているのが目についた。これはこのエリアを行政が居住禁止に指定したことに対し、今まで通り住み続けたいと願う住民の意思表示なのだそうだ。将来的にこの地域が本当に住むのに安全なのかどうかは私にはわからないが、神戸でも被災した自分たちの家に帰りたい、住み続けたいという人は多かった。誰にとっても、自分の家のある場所がいちばん落ち着いてくつろげる居場所なのである。行政とうまく話し合いで解決すれば良いなと願う。

 被災地を後にし、仙台市内へと向かう。バスの中はいささか重苦しい空気が流れていたが、昼食の説明が始まると少し和んだ雰囲気になった。本日は仙台の民藝協会の方々のイチ押しの牛タンを食べに行くそうである。

 仙台といえば牛タンとよく言われるが、私はまだこの地では食べたことがない。初・牛タンである。おすすめの店は、喜助という。創業は昭和50年。厳選した牛タンの中でも吟味した部位を選んで、職人が一枚ずつ手振りで塩を振り、丁寧に味付けをするのだそうだ。それを冷蔵室でじっくり熟成させ、牛タン本来の旨味を閉じ込め、炭火で一気に焼く。ということを、たっぷりと説明していただき、おなかがすいてきた。期待が高まる。

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 最初にやってきたのは、たんとうふ。熱々の絹ごし豆腐の上に、タン先のコリコリした部分をミンチにし秘伝のたれで味付けした餡がかかっている。あっさりした豆腐がタンの魔法で、酒の肴になりそうな一品になっている。牛タン厚焼き卵は、牛タンスモークのチップを巻き込んだ一品。喜助と押された焼印が、いかにも旨そう感を盛り上げている。わかめの彩りサラダは、南三陸町歌津の肉厚のわかめがたっぷり乗っている。シコシコのフレッシュな食感である。わかめもここいらでいいのが穫れるのだな。

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 いよいよ、メインの牛タンがやってきた。コリッと小気味よい食感なのに、噛みしめるとじゅわ〜ん肉汁があふれる口福。これがみんなを夢中にしている牛たんの魅力なのねと納得。つけあわせにはおしんこ。こちらのおしんこは、大根ではなく胡瓜の浅漬けで、シャキシャキの食感である。ごはんは、白米に大麦をブレンドしたいわゆる麦めしである。上にはたっぷりの青森産山芋のとろろがかかっている。牛タンと交互にこのとろろめしを食べながら、ときどきおしんこを口中に放り込む。さらに、青唐辛子を特製味噌に漬け込んだ味噌南蛮で変化をつける。またたくまに完食である。最後にコラーゲンたっぷりのテールスープをいただいたが、これがまたコクがあるのにすっきりしていて、美味しいこと。なるほど、これは充分満足できるご馳走である。

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 なんで仙台で牛タンなのかを少し調べてみた。話は戦後まで遡る。当時は焼鳥屋が多かったのだが、「他の店にないものを出したい」と考えたある料理人がたまたま洋食のタンシチューを食べ、これだ!とタンを焼くことを思いついた。あるいは、余ったタンを使ってみないかと相談され、試しに焼いてみたら美味しいので、それが定着したとか、微妙にディテールは違うけれど、まあおおむねそういうことであるらしい。けっして牛タンの産地だったからというわけでない名物。町おこしが成功した宇都宮の餃子とか富士宮の焼きそばとか、気がつけば普段の暮らしのなかになじんでいるご当地名物はけっこう多い。いいね、こういうの。近所にあったら、しょっちゅう通うだろう。