千夜千食

第31夜   2014年2月吉日

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由比缶詰所の「ツナ缶」

JALの機内誌で紹介されていた
いかにも質実剛健なツナ缶。
さっそく通販で大人買いしてみた。

 飛行機に乗る楽しみのひとつが機内誌を読むことだ。JALの「SKYWARD」、全日空の「翼の王国」どちらも編集、デザイン、執筆陣ともに優劣つけがたいクオリティがある。アートディレクターでありエディトリアルデザイナーでもある木村裕治氏の大ファンなので、かつては「翼の王国」を定期購読していた。バックナンバーは今も会社の本棚の奥にちゃんとキープしてある。有名なところでは「ミセス」「和楽」そして朝日新聞の日曜版に挟み込まれている「GLOBE」も木村さんの手になる。そんな理由で「翼の王国」ばかりを読んでいたのだが、メイン航空会社をJALにするようになってから岡本一宣さんアートディレクションの「SKYWARD」も読むようになった。岡本一宣さんも敬愛するアートディレクターであり、彼の赤本、黄本は私のデザインバイブルでもある。

  その「SKYWARD」(今はこちらも担当アートディレクターは変わっているようだ)を、正月NYから帰ってくる飛行機のなかで読んでいてすごく気になる記事に出会った。「旅するパン名人の贅沢サンド」という連載ものである。パン名人という松野玲子さんが毎回おいしいサンドイッチを紹介するというシリーズらしいのだが、この記事で紹介されている由比缶詰所のツナ缶に釘付けになったのである。

写真[3]写真[2]

 静岡県中部は知る人ぞ知るツナ缶の里で、国産ツナの9割をまかなう生産地なのだそうだ。知らんかった。そして由比缶詰所は、普段は委託製造でツナ缶を作っているらしいのだが、月に数日だけ自社ブランド「ホワイトシップ」のツナ缶を作っているという。その味は「一度食べたらやめられない」のだそうだ。本当にやめられなくなるかどうか、これは自分の舌で試さなくてはならないという気になってきた。

 日本に帰ってしばらくツナ缶のことは忘れていたのだが、深夜にパスタをつくろうと思い立ち、ナショナルブランドのツナ缶を手にした瞬間に由比缶詰所のことを思い出した。早速ネットで調べる。トップ画面に出てくるのは港町、由比の地元の人たちだろうか。おばあちゃん、漁師らしきおじさん、子供たち、ご近所のみなさんの素朴で、飾りけのない笑顔がそこにあった。失われつつある地元の匂いのようなもの、そんな郷愁に満ちたホームページ。たちまちハートをわしづかみにされ、ウェブショップに行く。

 由比缶詰所のこだわりは三つある。まずは、最高級の原料。鮮度のよい上質な夏びん長マグロ、その脂ののりのよい春から夏にかけて獲れたものだけを使うのだという。二つ目には質の高い綿実油とオリーブ油を使っていること。三つ目はじっくりと熟成させていること。まぐろの油漬けは熟成させるほど油となじんでまろやかさと風味が増すらしい。由比缶詰所では、製造後半年は出荷せず味わいが深まるまでじっくり寝かせて熟成させるのだそうだ。

  缶詰の賞味期限は三年と長い。大量に注文しても大丈夫だ。大型缶のツナ2号(200g)のファンシー缶を24缶。ギフトセットA(ファンシーとフレークの詰め合わせ15缶入り)。そしてレトルトパウチまぐろ水煮(100g入り×5袋)をまとめて注文した。

ツナ缶2ツナ缶1ツナ缶3

 届いたその日の深夜、さっそくファンシーを一缶使ってパスタを作った。オリーブオイルをいつもの半分にして、缶の綿実油も全部入れる。フライパンの中でぱちぱちと綿実油の爆ぜる音がする。ビーターでツナのかたまりを適当につぶす。具は茄子とズッキーニ、そしてツナ。仕上げはトマトソース。わくわくしながら口に運んだ。旨い!ゴロゴロとしたツナのかたまりが存在をしっかりと主張している。自分で適当につくる深夜のパスタの出来としては、近頃の出色である。ツナ缶ひとつでこうも変わるものなのかと感嘆。シンプルにスライスたまねぎと一緒にレモンを搾る。ガーリックトーストにのせる。最新のFacebookでは、そうめんつゆにツナを入れるアイデアも紹介されていた。家ではめったにつくらないが、いろいろな応用を楽しみたいと思った。何より、保存がきくというのも今の時代には合っていると思う。なわけで、由比缶詰所のツナ缶は我が家のパントリーのレギュラーとなったのである。

由比缶詰所のツナ缶を買う