千夜千食

第48夜   2014年3月吉日

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深夜営業の「銀座ありす」

深夜まで食事ができるという
銀座の隠れ家。看板はワインバーだが
秘かな名物はカレーそばなんだって。

 銀座の深夜に決め球がない。

 別に普通に食事してまっすぐ帰ればいいのだけれど、根が調子ものなので、やっぱりどこか寄ってみたい。もちろん、素敵なバーは何軒か開拓済みであるが、ちょっと小腹がすいたとき、深夜対応してくれる店はキープしておきたい。

 ねえ、ねえ、どっかいいとこない?と一柳の大将に問うてみると、ここなら深夜営業していてしかも食事もできるとのこと。歌舞伎終演が9時半過ぎのとある日、このところ鮨ばかり食べているので、ちょっと違うもので行きたいしということで、立ち寄ってみた。

 銀座に8丁目があるということを初めて知った。ずっと7丁目の次はもう新橋と思い込んでいたのであるが、それでは奇数で感覚的にも納まりが悪いし、地図にもちゃんと8丁目は表記されている。だが、昭和通りから行くと銀座東7丁目の信号を過ぎるとぐいんと第一京浜の方に曲がるので8丁目はないのである。そしてこの店は銀座というよりは汐留とか築地と言ったほうがわかりやすい立地である。もちろん住所は銀座8丁目ではあるけれど。

 店は銀座東7丁目と蓬莱橋の間の道を入り銀座中学校へと向かう途中にひっそりとある。昼間であれば、吉兆や竹葉亭など名だたる老舗が立ち並ぶエリアではあろうけど、夜間はどうにも暗い。それでもらしき灯りを発見してたどりつく。扉を開けると、中は極めてエレガントな佇まい。まるでフレンチと見紛うばかりの洗練具合。しかもカウンターにはどう見てもバカラにしか見えないグラスやデカンタがずらりと鎮座している。

 さてと。カウンターに座ってメニューを見せてもらう。店の仕立ては洋風であるが、メニューを見ると、限りなく和風の仕立てである。しかも、な、な、なんとカレーそばがある。だが、この店の雰囲気でいきなりカレーそばをずるずるというのは勇気が要りそう。カレーそばねえ・・・カレーそば・・・さんざん迷った挙句、やはりコースを試してみようと注文する。そして遠慮がちにコースの最後のごはんをカレーそばに変更してもらうという変則技をお願いしてみると、快く応じてくれる。そうそう、こういう融通無碍なところがある店って、いい店なんだよねえ。

 しかし、どうやらここは和食とワインを楽しむ店のようで、カウンターにはアンティークも含めてワイングラスがこれでもかとその美しい輝きを放っている。私は最初のシャンパンは別として和食にはやはり日本酒を合わせたいので、店の意には添わないかもしれないが日本酒を頼んだ。

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 一品目はきのこと貝のジュレがけ。土佐酢の香りがきりっと利いて、うん、なかなかよろしい。次の一品は、えんどう豆の豆腐仕立て。薄緑のいろが白いうつわに美しく映えている。たこの柔らか煮も、しっかり仕事がされている。刻みしょうががアクセント。お造りは、鯛とたいらぎ。これはこんな時間の割には、ちゃんとイカってた。お椀はすっきりとシンプルな関西風。底には、しんじょが隠れている。そしてホタルイカと金時草のぬた。関西風の白味噌はまったりと味わい深い。パリパリに揚げた甘鯛の上に白アスパラと菜の花、そして筍をアソートした一品はあんかけ仕立て。おろした柚子が散らされている。全7品。すーっと流れるように終わって、待ってましたのカレーそば。

 しかし、この流れでカレーそばというのは、やはりそうとうに違和感がある。これは、店の問題ではなく、こちらの注文の仕方が悪いのである。端正な和食の最後に、いらんもんを入れてしまったと軽く後悔するも、後の祭り。

 鉄則。和食の店でコースを頼むときは、店の流儀に従うべし。単体で魅惑のメニュー、とりわけカレーなどの個性の強いものを発見したときは、それ単体で頼むか、そんなにカレーが食べたきゃ、その後の店のシメとして注文すべし。

 なわけで、今度は深夜に小腹がすいたとき、ぜひともカレーそばを食べに来たいと思う。