千夜千食

第57夜   2014年4月凶日

  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px

京都の割烹

観光シーズン日曜の当日予約。
条件はあまりいいとはいえなかったが、
それでも星付きに最高を求めてはいけないのだろうか・・・

 基本、美味しいものを食べるときは、すべてが吉日であってほしい。若いころのようにそうそう店選びには失敗しなくなったし、初めての店に行くときは人に聞いたりネットで調べたりと、情報を得てから出かける。だけど、こちらの期待が大きければ大きいほど、ちょっとした店の対応でがっくりすることもときにはある。そうなると美味しかったはずの料理まで、なんだか美味しくなくなってくるのである。

 本来であれば、胸を張ってこの店のことを書きたかった。

 訪れたのは三回目である。

 まず、予約の時点でいけなかった。私は8時半を希望した。すると女将さんらしき人がもっと早くならないかと言う。南座が終わるのが8時25分頃なので、やはり8時半になりそうですというと、「なるべく早くおいでください」と居丈高。時間の遅いのに対応できないのであれば、きっぱりと断ってほしかった。それでも、こちらも行きたいと思っているので、我慢する。

 8時半ジャストに入店。最初はそれなりのテンポで出ていたのだが、急に間があいた。ご主人があろうことか「調理場が今日三人も休んでて」と言う。ちょっと待って。それ、私と何の関係があるんでしょ。いつもどおりの対応ができないのであれば、潔く店を休むか客を断るのが筋ではないだろうか。黙って箸を進めていると、今度はまだ食べ終わっていないのに次の皿がやってくる。え?すると折敷の外側にその皿が置かれるではないか。え?それは、ルール違反でしょ。タイミングは?私の食べる速度も、料理の減り具合も、一切おかまいなし。こうもあからさまに店都合の対応が続き、さすがに堪忍袋の緒が切れかけてきた。しかし、我慢。ひたすら我慢。

 この夜、私以外は全員が外国人であった。某ガイドブックを見て来るのだろうが、彼らには和食の間とか作法というものが日本人ほどにはわからないであろう。みな、ひと皿ひと皿にただただ感動している様子が見受けられる。女将さんも、如才なく流暢な英語で食べ方を説明している。そのことに店全体の意識がぐーっと傾いている。せっかく海外から来てくれた人たちに、喜んでもらいたいという気持ちはとてもよくわかる。だけど、ひとりだけそこにいた日本人のことがおざなりになるのであれば、それは浮かれ舞い上がっているただのおっちゃんおばちゃんの店である。

 星付きというのは、料理だけでなく、サービスの質も問われるのではなかったか。
調理場が三人も休むというのは、この手の規模の店ではオペレーション停止を意味する。いや、一流店という矜持があるのなら、ここは臨時休業でもしたほうがずっとよいと思うし、前々からの予約であれば調理場の人間を休ませないか、何らかの策を講じるのが亭主の勤めであろう。

 しかし、「人の振り見て我が振り直せ」である。自分都合を相手に押し付けない。ビジネスでもプライベートでも注意しなくてはならないと、改めて肝に銘じる。いやあ、どんな状況であれ、経験というものを積むことは大事だと思う。

 しかし悲しいことに、見送りに出てきたご主人が「○○さんとこ行ってはる?」ともともとこの店を紹介してくれた店の名をあげたので、思わず「○○さんとこ今日いっぱいやったから」と精一杯のいやきちを言うてしもうた。

 あきまへん。ほんまに、ほんまに、まだまだ修行が足りまへん。

 お互い、コンディションのええときに、ぜひとももう一度お手合わせ、おたのもうしますえ〜