千夜千食

第69夜   2014年5月吉日

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金沢郊外「鮨 八や」

ここでしか食べられない品がいろいろあると
それだけではるばる来た甲斐がある。
閑静な住宅街の中にある端正な鮨。

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 連休後半。ここ5年ほどこの時期になると決まって金沢に行きたくなってくる。たいていは興味ある美術展と鮨とのセットという名目ではあるが、ま、これははっきり言って鮨旅行である。

 そして決行には条件がある。昼に「小松弥助」が予約できるかどうか。「小松弥助」のOKが出ると、自動的に夜は「みつ川」を予約する。このふたつが揃ったところで、ホテルとサンダーバードの予約をするという按配。盤石のこの二軒をまず押さえておいて、新店開拓などを目論むのである。

 今回は二泊。二日目の昼と夜が決まっているので、移動日の夜をどうするか。他に行きたい店もあったが満席で、いろいろ探していたら家庭画報金沢特集にこの店が紹介されていた。ま、このクラスの雑誌なら、そうそうハズレはしないだろう。ということで「八や」を予約した。お店があるのは金沢郊外。タクシーが停まったのは住宅街の中。ん?こんなところにお店があるのと思いきや、すぐ先の一軒家がめざす「八や」であった。中はけっこう広々としてカウンターも気持ちがよい。

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 最初に出てきたのは、煮はまぐりの潮汁。うーん、いきなりこれは意表を突いてくる。そしてそのお出汁を取ったはまぐりの握り。そんなにお腹がペコペコな顔してますか?私?どうやらこれはこちらの店の流儀であるらしい。ひとまず胃を休ませてからスタートしていただきたいという配慮の行き届いた一品なのである。涼し気なガラスのうつわに入れられたお造りはしめ鯖、がんど、バイ貝、真子鰈、さより。がんどというのは、ぶりの小さいのを言うのだと大将が教えてくれる。

 コズクラ→フクラギ→ガンド→ブリと北陸ではなるらしい。
 ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ、これが関西バージョン。

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 地方によって、いろいろ呼び名が変わるのが面白い。というかこれだけ取ってみても、日本という国の豊かな多様性を感じてしまう。鮨屋でも文化人類学は学べるのである。ホタルイカは、軽く燻製したのと、酢味噌和えと。横にはしこしこの真河豚の幽庵焼き。お椀に入っているのは、なんと蒸し寿司である。能登宇出津(うしつ)で穫れる白子をとろとろにして蒸し、二杯酢をかけており、これもこちらの名物なのだそうだ。ここにしかないメニューというのがあるのはやっぱりいい。大根をたっぷり盛っているのはこちらも宇出津のマグロ。軽く炙っており、上品な脂が乗っている。そしてこのわたとイカの巻物。この取り合わせも初めてだが、イケる。そして、ここからは握り。マグロ、コハダ、大トロの炙りと続いて、海老三種。手前からしろえび、がすえび、あまえび。しろえびは4月解禁、がすえびは6月中旬まで。三種揃い踏みはこの季節ならではである。それぞれにねっとりと独特の旨味がある。こういう海老の楽しみ方ができるのも、北陸という地ならではの贅沢である。続いて、うに、がんど、のどぐろと食し、玉子はだし巻き風と海老入りの二種類。最後にトロ鉄火をいただいた。

 場所柄、地元の人も多そうだし、わざわざ足を伸ばす観光客も多いという。こんどは真冬に来てみたい。