千夜千食

第110夜   2014年7月吉日

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神戸鮨「城助」

住んでいるのに滅多に行かない北野・異人館通り。
移転してパワーアップした印象を受ける。
鮨に対峙する気合いと野望が満ち満ちている店。

 110夜目にして、とうとうの写真NG店である。別にとくべつに大将が偏固なわけでもなく、高飛車ということでもない。が、写真は撮らせてくれないのである。

 ここを教えてくれたのは祇園にある鮨屋の大将である。神戸ならここへ行くと教えてくれたうちの一軒である。同業が休みの日に訪ねる鮨が悪いはずはないし、その祇園の鮨も気に入ったので行く気になった。二回ほど訪れ、キレのある鮨だなと思っていた。ところが、しばらくして電話が通じなくなり、そのうち店を移転したという噂が聞こえて来た。今までは生田門筋から歩いていける場所だったのが、神戸の北野という少し上の方に変わったという。何回電話しても出ないので、しばらく遠ざかっていた。ところがある日、ショートメールが送られてき、そこには「またお待ちしています」というメッセージがあったのである。

 それならば。早速、新しい店に出かけることにした。

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 神戸北野。異人館通りに面したビルの一階。さすがに移転しただけあって、店構えは前に比べると格段に洒落ている。一見さんは少し入りにくいくらいの上品な威圧感。引き戸を引くと、蹲があり、その先にもまた引き戸。間をじゅうぶんに取っており、期待を高めるつくりになっている。中は広々としたカウンター。奥には個室もあるようである。舞台は上々。重畳至極。

 ツマミはいきなり、真子鰈の肝巻きからである。肝を身で巻くという変化球。これは、わくわくしてくるではないか。日本酒はおまかせである。奈良御所の篠峯という大吟が出される。限定流通という手に入りにくい酒であるらしいが、これがまた真子鰈によく合う。続いて、たこ。これはもう正真正銘明石のたこである。歯ごたえが違う。そして、あん肝を裏ごしした一品。ここですでに一合が終わってしまう。次に出されたのはキレのある奥丹波。天才杜氏のつくる酒である。貝の出汁が入った茶碗蒸しも旨い。鯖の胡麻和えは、上品な脂に香ばしさがからむ悪魔の誘惑。こういうツマミを出されると、ほんと、酒がぐいぐい進むのだ。で、カラスミの炙り。あきまへんな。ほんま、あきまへん。イワシ、サヨリと続いて、たまらずまた一合。石川の天狗舞五凛。あきまへん。ここまででも、かなりの充実度である。大将は、もともと淡路出身で実家は魚屋であると聞く。淡路の魚屋。こんな太いルートはないだろう。鮨屋にとっては至上のバックグラウンドであろう。

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 握りは、イカ、アジ、カツオの薫製、キス、かすご、蛤、白えび、のどぐろ、金目鯛と続いた。どれもキリッとした江戸前の握りで申し分ない。そして〆には、鮨飯を揚げたものが出される。これだけは、さすがに撮らせてもらったが、酢飯の味わいがカリカリした食感の中に隠れてい、なかなか旨いのだ。癖になる。

 鮨を「寿志」と表記しているのが、大将の気概の現れか。一見とっつきにくい感じもするのだが、話しかければちゃんと気さくにしゃべってくれる。毎日遅くまで店に残り、鮨を研究したり、いろいろなネタを仕込んでいるという。そういう意味では、つねに進化し続けている鮨なのであろう。いずれ、東京進出も考えているという野望も語ってくれた。うーん。やっぱり職人系の人たちは、東京が最終目標になるのだろうかね。こういう店こそ神戸にあってほしいけど、それはこちらの勝手。神戸の鮨にめっきり縁遠くなってしまった今としては、行かないでと言える立場でもない。夜10時以降も入店可能であるらしいので、せめて、半年に一度ぐらいはその進化の方向性を確かめに来なければいけないとな思う。