千夜千食

第133夜   2014年10月吉日

  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px

神宮前「イートリップ」

センスのよい女友達の家に招かれたような雰囲気。
ファッションで言えば、エフォートレスって感じかな。
料理も、供し方も、そこに流れる時間もコンファータブル。

th_写真

 仕事仲間でもあり、友人でもあるスタイリストのNちゃんが、原宿になかなか素敵なお店があるのと言う。予約を取ってくれたので、現地で待ち合わせすることにした。

 原宿を目的地にするなんて何年ぶりだろう。南青山にはしょっちゅう行ってても、明治通から上(地図上、原宿駅に向かって)には長らく足を踏み入れていない。あの辺は若い人の街という感じがするし、店にもあんまり用がない。だから久しぶりに明治通りを横切って、表参道を上がった(上がるという言い方が正しいのかどうかはわからないけど・笑)。めざす店は、ちょうどザラの裏手の路地の奥にある。入り口がわかりにくいというのは、最近の隠れ家風レストランのトレンドである。

th_写真[1]th_写真[2]th_写真[11]

 ようやく探し当て、木が生い茂る小道を歩く。期待すべき今夜の夕餉へのわくわくする道行きである。店の入り口の壁には大きなリースが飾られている。ぎいいとドアを開くと、そこはフェミニンさが横溢する異空間。欧米生活が長くって、自然派の暮らしを実践していて、料理が上手で、センスのとびきりよい女友達の家のリビング。そんなきわめてインティメイトなイメージである。キャンドルの灯りを効果的に使っている。

th_写真[7]th_写真[3]th_写真[4]th_写真[5]th_写真[6]th_写真[8]th_写真[9]th_写真[10]

 アルボワシャルドネのレ・フォラスをボトルでいただく。ジュラの白はバランスの豊かな香りがあり、切れ味もよい。アミューズに出て来たのは銀杏。前菜は木のプレートにバランスよく盛りつけられた根菜や魚のマリネサラダ、レバーやのパテ。ヘルシーで、素材本来の味を大事にしているのがよくわかる。卵のフェトチーネはカリフラワーと相性がいい。ローストしたナッツがアクセントになっている。麺のしこしこ具合とトッピングのカリッとした食感とのマッチングで魅了するパスタ。こういうの、家でも作ってみたい。メインは金目鯛のポワレ。ソースはローズマリー風味。こちらも皮がパリッとしていて、味と食感のデリシャスなコンビネーションが際立っている。デザートはアップルパイにアイスクリーム。健康的でありながら、自然派のトレンドを意識したメニュー構成である。雑誌「KINFOLK」的な匂いも少々。

 この店の名前は「eatrip」。eatとtripを組み合わせているわけで、ネーミングの秀逸さにはうーん、やられたって感がある。そうなのよね。食べるって、旅でもあるんだ。人の営みのなかで、世界どこへ行っても食という行為は共通しているし、食を通じて理解する知らない世界はいつだって新鮮で刺激に満ちている。私の場合、訪れた土地の記憶のほとんどは食にまつわるものであるし。さほどに、食は人生から切り離せないものなのだ。

 こちらを経営しているのは、フードディレクターの野村友里さん。お客さんは圧倒的に女性が多い。というか、ここは都会に住んでバリバリ仕事しつつ健康に気を使っている女性にはたまらなく魅力的な場だと思う。料理はおいしいし、店の雰囲気も素敵だし、値段もそこそこリーズナブル。ただ、正直に言うと、私にはどうも居心地が悪い。こういう健康的な店のテイストが私のライフスタイルにないせいだ。私が限りなくおやじ志向であるからか。どうも、少々やばいぐらいのこってりさとか、卵尽くしで身体に悪いものとか、店の灯りでもロマンティックなのではなく、ファンキーかつエロティックな灯りとか。はっきり言うと、お宗旨が違うのである。

 が、いつまでも、そういう店ばかり好んでいては身体に悪い。これをきっかけにこういった店にもちゃんと来て、規則正しい生活をあたりまえのように送れる真人間になりたいとは思っているのである。思ってはいるのだけど。

 今度、ランチに来てみよう。