千夜千食

第155夜   2014年12月吉日

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白金「オー・ギャマン・ド・トキオ」

移転する直前に久しぶりに行ってみた。
ここのカウンタースタイル、何人かで来て
いろいろ注文し、わいわいやるのが楽しい店である。

 10年ほど前に何度か来た店である。オープンキッチンのライブ感とそれを取り囲むカウンターの配置が当時はユニークで、料理もクリエイティブにあふれ、デザートにどら焼きを頼むと目の前の鉄板で皮から焼いてくれるとあって楽しい店だった。が、当時一緒に行っていた人間が、実は信用できないとんでもない野郎だったのが発覚し、なんだか験の悪い店として以来敬遠していたのだった。三年ほど前、偶然にも地下のハナレに友人が連れて行ってくれたこともあり、それなりに年月もたっているのと、移転するという話も聞いたので最後に行ってみようと思い立った。

 ちょうど仕事で会社の女のコたちも上京しているので、皆で一緒に出かけることにした。店のいちばん奥、カウンターの終着点に陣取った。こういう店中を睥睨できる位置は大好きである。いや、別に睥睨しているつもりはないのだが、どうも妙に偉そうに見えるらしく、あえて睥睨と言ってみた。カウンターから料理しているのがすべて見えるのがこの店の特徴で、他の人の注文でもなにやら美味しそうだとあれ何?と聞くこともでき、作る過程すべてがショウケースになっている。今でこそ、こういうスタイルの店は普通になっているが、来始めた頃はそのしつらえだけでもじゅうぶんに新しかった。

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 さてと。黒板を見ながらメニューにあれこれと悩む。女三人だと、なかなか決まらない。私はけっこういらちなので、ひとりのときはサッサと注文するが、まあこういうときはおつきあいする。悩んでいる間にシャンパンで乾杯し、再びさてと。ここはモレスクの息がかかっているので(笑)、とうもろこしのムースと生ウニという魅惑的な冷菜がある。まずはそれをもらって・・・みんなで頼んだら、いろいろ少しずついただける。で、カワハギの肝醤油カルパッチョに焼茄子のオカヒジキ和え。カワハギという魚も大好きである。関西ではハゲという。こいつの肝は醤油に混ぜたり、刺身にまぶして食べるのがいちばん旨い。白身ではあるが、コリコリでたいそうよく活かっている。ローマ産プンタレラのサラダは、冬が旬。アスパラガスチコリとも呼ばれ、ほろ苦でシャキシャキした食感は癖になりそうな美味しさ。ラディッキオもそうだけど、けっこうイタリアの野菜って旨い。好物である。続いて、ホタテ貝の湯葉巻き揚げ自然薯アメリケーヌ。これは、まわりのアメリケーヌソースに自然薯を入れたというアイデアが秀逸な一品である。海老と自然薯。普通は思いつかない組み合わせであろう。これが、湯葉のパリパリの皮と絶妙に相性がよいのだ。見た目もたいそう美しい。まわりのソースがネバネバ自然薯だとは食べるまで気づかないだろうて。メイン第一弾はアワビとツブ貝のソテー肝バターソースである。コリコリ具合がたまらない。肝ソース、本日二品めである。どんだけ肝好きなんだろうと、心の中で苦笑する。メイン第二弾は山鶉のロースト。つけあわせは北あかりのグラタン。冬は魚がおいしくなる季節であるが、ジビエの季節でもある。エゾシカやイノシシ、鴨、鶉・・・どれも大好物である。山鶉は小さくても野生味があり、こっくりしている。これを粒マスタードのソースでいただくのだ。このへんでやめておけばいいのだけれど、三人いるので〆にパスタもちょっとだけ。わさびのパスタをいただいたのだが、これ、目の前で見ていると、チューブのわさびでつくるのである。ま、和風ペペロンチーノといった感じである。パスタのゆで具合勝負の一品。これは家でも試してみよう。すぐ作れそうだし。

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 デザートはやはりやはりどら焼きある。目の前の鉄板でふわふわの皮を焼いてくれる。考えてみればホットケーキを焼くのは簡単なんだから、どら焼きだってすぐ作れるのである。他のお客様のデザートを作るのを見ていたから、アイスクリームがあることはわかっている。で、アイスクリームをはさんでもらう。うふふ。スペシャルクリームどら焼きである。

 この店、来年には恵比寿に移転すると聞いている(現在すでに移転済み)。新しい店もカウンター中心でライブな感じになるのだろうな。ときどき泊まる某ホテルのすぐ近所である。場が変われば、そこにくっついているイヤな思い出も消える。機会があれば、行ってみるのはやぶさかではない。うん。