MOMAの「THE MODERN」
ニューヨーク滞在中にここも一度は来る。
ロケーション、プレゼンテーションともに
毎回とびきりアーティスティックな驚きがある。
MOMAは時間が許せば何度でも訪れたい場所である。単にアートを楽しむというだけでなく、ここのミュージアムショップで写真集を眺めたり、可愛い文房具やポストカードを探すのも楽しいし、中庭でぼーっとするのも好きだ。時期によっては面白いインスタレーションや企画展もあって、いつも刺激をもらえる。それに、それに、何と言っても「THE MODERN」 がある。こんな美術館はなかなかないだろう。
ここ数年ランチばかりだったので、今年はディナーのテーブルを予約した。夜のメニューを見ていたら、テイスティングというのを発見した。Tasting( Caviar / Beetroot / Foie Gras / Loup de Mer / Black Truffle & Beef / Sorbet / Chocolate)このズラリ並んだ素材を使って、シェフが腕をふるうというわけね。せっかくなので、チャレンジすることにした。ついでに、せっかくなので(笑)、シャンパンはロゼにしてみた。あ、もちろん、グラスでね。
〜 Tasting 〜
Caviar
さて、初っ端から意表を突く皿は、ポーチドエッグにソースをからめキャビアをどっさり乗せたもの。これが一品目の Caviar であるな。この長方形の物体は、ブリオッシュをカリカリにトーストしてカットしたものである。これでとろとろの卵をすくい、キャビアをまぶし食するというスタイルである。ううむ。ブリオッシュのバターが濃厚すぎて私には少々ツーマッチ。三種類もあるバゲットの中からいちばんシンプルなのを選んで、そちらですくってちょうどいいくらい。超リッチかつ贅沢なお味。
Beetroot
これは、いわゆるビーツである。私にはビーツの何がキャビアやフォアグラと並ぶほどの食材かはわからないのだが、こうして堂々と出されるということは、それなりの地位をこちらでは確保しているということか。ビーツに洋梨をアソートし、まわりにはオーツ麦のクランチを散らしている。ビーツだけでも甘酸っぱいのに、洋梨のねっとりした甘さがそれに重なって、これははっきり言って口に合わない。が、まあ量もそんなにはないので、我慢して残さず食べる。
Foie Gras
いやあ、椀飯振舞である。フォワグラをほとんどそのまんまの状態でパイ仕立てにしている。で、ここに合わせているのはなんとオレンジと金柑である。金柑は大好物であるが、なにしろあの独特の芳香はきわめて個性的である。フォワグラと意外に合うことはわかったが、それでも金柑のねっとりした甘さは少し過剰な気がする。しかし、これならアンコウの肝と金柑という取り合わせもありだな、などと思い始めると、ここに日本酒があったらどんなにいいかなど余計なことを考える。いや、日本酒とフォワグラは合わないだろうけどね。
Loup de Mer
これは魚の名前であるらしいのだが、聞いたことがない。欧米ではポピュラーな魚であるらしく、地中海で穫れる鱸とよく似た魚のことを言う。あっさりとした白身である。これをほうれん草のソテーと一緒にいただく。ソースに軽く醤油のニュアンスを感じて、ホッとする。これまでの三品が少しリッチすぎある種のくどさを感じていただけに、このひと皿でちょっと落ち着く。なんだ、私ってやっぱり日本人じゃないとひとり苦笑。醤油を含む出汁文化って、だけどやっぱり凄い。こういうコースの中に組み合わせられてもまったく違和感がないし、むしろ全体の中に鮮やかな句読点を打ってくれる感じがする。素晴らしい。
Black Truffle & Beef
黒トリュフとテンダロインである。この素晴らしい立方体!上には黒トリュフ。左の野菜はルタバガという蕪の一種をブイヨンで含ませ煮にしたもので、スコットランドではチューニップとも呼ぶらしい。食感が心地よく、トリュフとの相性もよい。このソースは肉汁をぎゅっと閉じ込めながらも、味わうと口の中で官能的に蕩けていくようなセクシーな出来栄えで、いや、はっきり言って馬鹿馬であった。前菜の逸脱を、魚や肉のメインでちゃんとなだめてくれた。そんな流れであった。これはこれで計算づくなんだとしたら、さすがとしか言い様がない。
Sorbet
マンゴーのソルベである。東南アジアでならわかるが、なぜ北米にこんなに超濃厚なマンゴーがあるのか!と舌を巻くほどのねっとりした完熟マンゴー。果肉そのままでも抱腹絶倒の旨さにあるに違いない上等のマンゴーの雑味を完全に取り除き、ソルベにしているというのが凄いと思う。いやさ、天晴であるわ。
Chocolate
左の白いのも、チョコレート。右はヘーゼルナッツのチョコレート。濃厚なマンゴーの後に、さらにリッチなチョコレート攻撃である。全体としてさほど量があるわけでもないのに、さすがの私もこのコースの組立の複雑さと過剰さにちょっとやられちまったという気がする。
全5品+デザート2品。Tasting とメニューに書いているところに、three と four というのもあり、それはその中から3つとか4つ好きなのを選べるのであった。後の祭りである・・・。いや、全体的に素晴らしく手のこんだ食材と調理であるにはあったが、長旅をしてきた身体では少々リッチすぎたかしらね。お腹パンパン・・・。来年は、やっぱり好きなのを選ぶアラカルトに戻そう。