新地の懐石料理「かが万」
茶室の中に意表を突くカウンター。
料理にもうつわにも贅を凝らした茶懐石。
春海バカラの連打に参りましたです。
かが万本店。ここはもちろんとくべつに連れて来てもらうところである。
廊下の脇にある戸を引くと、異空間が現れる。もともとはちゃんとした四畳半の茶室だったのだろう、床も躙り口も残されている。異質なのはその空間を半分に割り、真ん中にカウンターをしつらえていることである。客はカウンターに向かい畳に腰掛けられるようになっており、カウンターの向こう側には小さな厨房がある。つまり、この空間はきわめてエクスクルーシブな完全個室なのである。専属の料理人が目の前で料理をつくってくれる。メニューはなく、その日のおすすめの食材や、ゲストの体調などを細かく聞いてくれ、当意即妙で料理を組み立てていくという贅沢さなのである。
そしてこの空間には、ここだけで使ううつわが棚にずらりと並んでいる。
この日は永楽善五郎の酒器で日本酒をいただいた。松の絵柄に金を施したおめでたい柄である。向付けは織部に盛られた明石の鯛。ねっとりと弾力のある歯応えである。煮物椀は蛤のおつゆ。磯の香りが馥郁と漲る一品だ。焼物は脂の乗った真魚鰹。唐津に盛られ、懐石風に黒文字の取り箸が添えられている。取り分ける皿も青白磁の牡丹の柄。即全の赤絵に盛られているのは松葉蟹と法蓮草の和え物。こちらは唐津の皿に取り分ける。なまこの酢の物はまだら唐津のうつわに入って。味はもちろんどの一品も素晴らしいが、それ以上にうつわが目を楽しませてくれる趣向となっている。
驚いたのは蒸し蚫を盛った大皿も取り皿もバカラだったことである。聞けばすべて春海バカラだという。夏の茶席で使われることもある金の縁取りをした春海バカラの菓子器は有名であるが、こんな皿を実際に惜しげもなくバンバン使っているのを見たのは初めてである。しかもてっきりアンティークだと思っていたら、注文してつくってもらったという。続いて出されたお椀も春海バカラである。ガラスのお椀のふたを取ると中にはしいたけの上に削り鰹をかけたもの。食事のとき雑炊と一緒に出された鰹もバカラの皿に乗っていた。
なんという贅沢か。季節は冬である。が、奇しくも本日はクリスマスイヴ。クリスタルのきらめきと金の縁取りは、こういう日にこそふさわしいのかも。