千夜千食

第191夜   2015年2月吉日

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新地割烹「竹膳」

気軽に入って好きなものを注文する。
居酒屋スタイルでありながら限りなく本格和食。
こういう店を知っておくのが大人というもんだ。うん。

 みーさんは、クライアントでありながら我々の兄貴分のような存在である。今は仕事を通じてではなく、思い出したようにときどき一緒にごはんを食べて、情報交換をする間柄である。今回は、僕がちょくちょくひとりで行く肩肘張らないところに連れて行くからということで仕事の相棒とともにやって来た。

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 新地の堂島よりのビルの奥まったところ。店はカウンターにテーブル席、そして奥に小上がりがある。そこに陣取って、まずは日本酒を注文する。おすすめは、小左衛門の特別純米美山錦、しぼりたての生。長野県産の美山錦を使い、岐阜で仕込んだ旨酒である。しぼりたては季節限定。杏やりんごのようなほのかな香りがするそうだが、たしかにやさしい酒である。くいくい行けてしまう。私もたいがい酒のペースは早い方だけど、みーさんと来たらもうぐいぐい、ぐびぐびという感じ。

 こういう店はコースではなく、その日のメニューを見て、食べたいものを手当たり次第ジャンジャン注文する。日頃は吟味されたひと皿ひと皿いただくおまかせスタイルが多いので、こういう店でたくさんのお皿をテーブルに並べ、あれもこれもといただくのは楽しいし、相棒と好きなものを奪い合いするのも愉快である。

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 しかし、男性というのはポテトサラダが好きだな。私が知る限り、それがメニューにあれば、ほとんどの人が注文している。あれは一体なんであろう。上は団塊世代から、下は20代まで、みんな大好きである。あれもおふくろの味なのか。そして今夜もみーさんは当然のように、ポテトサラダを注文する。そこへ魚好きの私が、お造りの盛り合わせを頼む。こういうときの暗黙のルールは、それぞれが食べたいものを2〜3品注文するというスタイル。なので、お造りに続いてはふぐの唐揚げと白子焼きも頼む。するとみーさんは、ぬたと蓮根のはさみ揚げ、牡蠣フライと続く。「魚ばっかりやないか」と相棒が文句を言いながら、出汁巻きに、サラダ、ローストビーフを追加する。結果的に、魚も肉もバランスよくテーブルに並ぶことになるのである。

 どの皿も板前さんがしっかり作った料理なので美味しいのであるが、小上がりで畳の上に座り、日本酒を飲んでいるうちに、どんどん座はくだけていく。もちろん最初は仕事の話を真剣にしているのであるが、ぐいぐいぐびぐび酒が進むにつれ、話はどんどん与太っていき、しまいにぬたをつつきながら、ぬたはなんでぬたというのか、などという馬鹿バナシへと展開していく。ぬたの話は以前にも酒席で話題になったことがあるのだが、まず語感がなんともいえずこの料理の印象をうまくいい当てている。しかも、見るからにぬたっとした風情。ぬたぬたしたその雰囲気からそう名づけられたとか、味噌のどろっとしたビジュアルがいかにも沼を連想させるからとか、そいうえばぬたくるという動詞(ないけど・・)にはのたうちまわる感じもあるなあとか、酔っぱらっているので好き勝手いうのが楽しいし、こういう与太話から思いがけないアイデアというのも生まれたりする(いや、実際仕事のアイデアはこのところほとんど雑談から生まれている)ので、私はこういう時間をこよなく愛している。

 さて、ぬたである。語源由来辞典で調べてみると、ぬたはやはり、味噌のどろりとした見た目が沼田を連想させるからこの名がついたとあり、ああやっぱりなあと再び盛り上がる。そういえば、以前浅草の天丼で有名な店でぬたを注文したことがあって、真っ黒い一品がやって来たので、「これ何ですか?ぬたを注文したはずだけど」と言うと、「それがぬたです」と言われたことを思い出す。関西でぬたと言えば、白味噌と相場が決まっているので、真っ黒いぬたには正直魂消てしまったのである。かの地では白味噌ではなく、八丁味噌を使っており、味もかなり濃いめであった。しかしネタがマグロであることを考えると、このケースはやっぱり八丁味噌のほうが正解なのだと思う。というようなことも口にし、ぬたネタだけで一時間盛り上がる。そして、シメはちりめんじゃこをかけたごはんに、お吸い物。

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 まことに、こういうスタイルは気取らなくって、馬鹿言えて、実に楽しいのである。こんな店を何軒かキープしておきたいものである。