千夜千食

第193夜   2015年2月吉日

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大阪「トラットリア・パッパ」

忘れた頃に思い出して行くイタリアン。
魚をメインにさまざまな創意を凝らしており、
旬の魚でつくるアクアパッツアは絶品。

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 漢三人で(トーゼン、私も入ってる)なんだかもやもやしている気分にお疲れ様を言うべく、ちょいと食事でもということになったが、居酒屋だと腰を据えてしまいクダ巻いたり、暴れてしまうかもしれぬ。それはちと具合が悪い。で、いろいろ探していて、はた、と思いついた。イタリアンなので女子率は高いが、ここならおっさんが少々騒いでも、あんまり目立たなさそうだし、そういうグループにも優しく接してくれそうな懐の深さを感じる。よし、ここにしよう。

 予約が取れたので、翌日さっそくやって来た。ここは魚介類オンリーパワフルイタリアンと謳っているのである。魚介類好きのオーナーシェフが毎朝、中央卸売市場で仕入れてきた新鮮な魚をいかようにも料理してくれる、魚好きにはたまらない店なのである。メニューも、決まったものはあるものの、その日の魚介類をどう食べるかいろいろ相談しながら、食べたいものを作ってもらうというのがベストである。こういう店が私は大好きであるし、何より、何でも来いという心構えが男らしい。

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 まずはイタリアのスパークリングワインを。フランチャコルタのサテン。エレガントな泡立ちに白い花の香りがするシャルドネ100%。おっさんには少々もったいないけれど、私も飲むのでまあいいか。ひと皿めは、本日のおすすめである金目鯛と清水鯖のカルパッチョである。豪勢かつ大胆な切り身は、ほとんどお造りの感覚だ。金目鯛なんて、昔は静岡まで足を運ばないと食べられなかったと記憶しているが、ここ何年かのあいだに鮨屋でも普通に出るし、とうとうイタリアンでも使うようになったのかと感慨深い。そして、日本の流通システムの迅速さとスムーズさを思う。今や、どこの産地の鮮魚だってお金さえあればすぐさま手に入るのだ。イタリアンを食べに来て、日本という国の素晴らしさに気づく。システムがきちんと機能しているだけでなく行き届いているというのは、なんとありがたいことだろう。

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 前菜二品目は生ハムとモッツレラとトマトのサラダ仕立て。生ハムだって、今やあたりまえのようにどんな種類のものでも手に入るし、作ることもできるのだとまたしても感慨にふける。大昔、生ハムを国内で製造することはご法度であった。輸入されるものもほとんど種類がなく、当然とても高価であった。メロンと生ハムの一皿など、そうおいそれといただけるものではなかったのである。それが今では、バルでも気軽にいただけるようになったし、国内でも志の高い職人たちが、驚くべき味の生ハムを作るようになっている。そんなことをしみじみ思いながらいただく生ハム。普通に美味しい。そういえば大昔、フィレンツェの市場で生ハムや生サラミの塊をしこたま買い込んで、スーツケースの中に隠して帰ってきたことがある。税関で見つかれば没収される。それでも持って帰りたい。最悪のケースを想像して、もし見つかったら「じゃあ、ここで全部食べます」とその場でむしゃむしゃとハムを食べる様子までありありとイメージしていたが、すっと通してくれ拍子抜けしたことがある。その夜は家の近所の天皇バーに塊ごと持ち込んで生ハム祭りを楽しんだ。古き好き思い出である。そうこうしている間にワインは二本目。フランツ・ハースのマンナという白ワイン。しっかりと熟成したバランスのよい味わいである。で、この食べかけ(失礼)の白いのは白子のグラタン仕立てである。たいへんよろしいお味である。ま、白子さえ入っていれば、私は満足。笑。

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 パスタはカニがたっぷりのスパゲティ。これをするするっと啜った後は、メインのアクアパッツアである。本日の魚はスズキ。そこにムール貝、あさりを加え、たっぷりのトマトと共に煮込んだ南イタリアの郷土料理。ま、イタリアン潮汁であるな。スズキの身はほろりと取れ、ほっくりした白身をガーリックのよく効いたスープに浸していただく。海の恵みをあますことなく味わうひと皿。大満足かつ大満腹である。魚一匹まるごと堪能することについて、私の中で揺るぎないナンバーワンは何と言ってもキンキの煮付けである。続いて、ノドグロの焼き物、鯛の塩焼き、カレイの煮付けあたりの順番になるのだが、和風以外で挙げるとしたらこのアクアパッツアと中華の蒸し物は入れてもいいと思っている。それにキンキの煮付けは、どんなに大きくてもひとりで食べたいが、このアクアパッツアは二、三人でわいわい言いながら、取り合いしながら食べるのが、ダンゼン楽しい。そして、そうやって夢中になって食べている間に、なんだかもやもや気分はすっかり吹き飛んでおり、「もやもや」からいきなり「どやどや」といういつもの気分に戻してくれたのである。パワフルイタリアンに感謝、である。