千夜千食

第201夜   2015年3月吉日

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キヨスク「タマゴロウ」

キャビアやイクラから鶉まで、卵という卵が大好きである。
でもきっといちばんよく食べ、好きなのは鶏卵であろう。
JRキヨスクで見つけた絶品塩たまご。唸るぜ、これ。

 ゆでたまごと国鉄。冷凍みかんと国鉄。なんと郷愁を誘う取り合わせであろう。大昔、鉄道のお供といえば、駅弁以外じゃあ、だいたいこのふたつと相場が決まっていた。ゆでたまごも冷凍みかんも別にそうたいして美味かった記憶はないのだが、車内で食べるという行為そのものが子供心にわくわくするほど背徳的であった。だいたい、昔の人は人前でそうそうものを食べるなんてことはしなかった。それが、長距離の車内でなら許されるのである。当時のこととて、お茶がないと喉がつまりそうになるくらい固茹でのたまごではあったが、外側にまぶしてある塩をつけながら食べた記憶は鮮明に残っている。

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 あるとき、JR大阪駅のキヨスクで、この塩たまごを発見した。何の変哲もない網に入ったたまご2個。塩はまぶされていない。なんだか妙に懐かしくなって、つい買ってみた。殻を割り、口に運ぶと、ほどよい塩気。しかもたまごは半熟。

 なに、これ?馬鹿馬ではないか。

 2個入りというのがまた痺れる。軽めのお昼、あるいは食欲旺盛な日のおやつ。ときには朝ご飯がわりに。食べれば食べるほどクセになるシンプルかつ深い味わい。

 たかがたまごと言うなかれ。身の回りの食材で、これほどシンプルにいのちのパワーを感じさせてくれる食べ物があるだろうか。鶏のいのちそのものの貴い滋味。それが海の恵みの塩と合わさると、どんなご馳走もかなわない深みをくれる。この味はいったいどうやってつくっているのだろう。だって、塩たまごでありながら、どこにも塩の形跡がないのである。不思議も不思議、摩訶不思議なたまごである。

 調べてみると。

 タマゴロウは、中日本株式会社という会社の看板商品であった。会社があるのは愛知県豊橋市。鶏卵加工の製造を核としながら、鶏卵の販売、たまご関係の施設の経営など、「たまごひと筋」の会社であるらしいのだ。ホームページによると、ここで使っているたまごは、特定提携養鶏場の恵まれた環境で育てられた健康な鶏からうまれたたまごを最新鋭の設備と徹底した衛生管理で供給しているとある。もちろん提携養鶏場はすべて名前も場所も明らかになっている。

 このホームページを見たとき、たまご好きとして中日本さんに頭が下がるような思いがした。小さなたまごであるが、これほどたまごに情熱を傾けている会社があるなんて。しかも、ホームページには「たまごのがっこう」というのがあり、豊橋には専門の施設がある。新鮮な朝採りたまごを使ったカスタードクリームでつくる王様のシュークリームは、見ているだけで涎が出そうに美味しそうだし、名物のふわもこロールケーキもいっぺん食べてみたいと思わせる幸せな佇まい。ぱぱ&ままガーデンという施設では、たまごのお惣菜や加工品を販売しているらしい。できたてのたまごサラダをパンの中に好きなだけつめ放題できる「たまごサラダつめ放題パン(¥300)」というのは、たまご好きには悪魔のように魅力的な商品であろう。

 タマゴロウ。たまごへの愛情たっぷりの会社がつくった塩たまご。絶品である。