新地おでん「とみ乃家」
すっぽん、すき焼き、おでん、そば。
もう無茶苦茶なバトルロワイヤル状態での会食。
ま、こんな夜もあってもいいのだが、それにしても・・・
あらためて写真を見て、ほんとうに無茶苦茶な注文のしかただと反省。いや、私が注文したわけではない。クライアント筋のおじさまや若いのも交えての会食。みんながそれぞれ好きなものを注文した結果なのであるが、それなりの店でこういう雑食をしてはいけないとつくづく思った。まるっきり、居酒屋状態である。
こちらはおでんで有名な新地まん卯の系列店である。カウンターもテーブルも掘りごたつ式になっているので、くつろぎながら食事が楽しめる。基本は好きなおでんネタを注文し、一品づつ上品に盛りつけられた小皿で出汁とともにいただく。
先付けとして最初に出されたのは、折敷の上に並べられた小皿。ホタルイカとわけぎのぬた、湯葉、いんげん、あんこうの肝。志野の向付に入っているのは、平目の昆布締め。特別純米の極上吉乃川をちびちびとやりながら、いただく。いい按配である。
続いて出てきたのは、すっぽん鍋である。コラーゲンたっぷりのすっぽんを贅沢にも葱だけでいただく一品。すっぽんというのはほんまに凄い。単一の素材でこれだけパワフルに漲るエキスを出せるのだ。すっぽんには、コラーゲンだけでなく、必須アミノ酸、リノール酸、ビタミンB群はもちろんのこと鉄やカルシウムなどが含まれてい、昔から滋養強壮に効くと言われてきた。そのうえ血液をサラサラにしてくれ、美肌に効果があるともいう。だが何といってもすっぽんの最大の魅力は、健康と美容に素晴らしい効能がありながらとびきり旨いということだろう。力強いエキスのパワー。こっくりしながらもキレのある澄んだスープ。これが漢方薬のような味だったら、すっぽんの値打ちは半減するだろう。出汁だけでも死ぬほど旨い。いや、ほんま。
ところがである。ここから暴走が始まるのである。すっぽんだけでもうじゅうぶんなご馳走であるのに、若いのと一緒だとこんなんじゃ全然足りないのである。おじさまも気を使ってか、すき焼きを注文してくださる。しかし、普通すっぽん鍋を食べた後に、すき焼きなんぞ食べるかね。と、思いながらも、自分にあてがわれた小皿(もちろん卵が割られている)につい肉を入れてしまう。新地の名店であるから、当然上等の牛肉を使っておりさすがにとろけるような旨さである。日本酒で一服していると、せっかくだからおでんも行こうという話になる。
おでん。いいですね。まずはロールキャベツ。はじめておでんにこういう洋モノを入れたのは誰なんだろうね。邪道だのなんだのいう人もいるけど、普通に美味しいのよね。餃子なんてのもあって、これもつるりと小気味良く喉を通っていく。そして半熟の卵。卵好きであるから、ついこれは積極的に注文してしまった。
〆は名物のさえずりである。さえずりとは、クジラの舌を乾燥させたもので、関西でおでんといえばさえずりと同義語であるくらい、メジャーかつ高級タネとされている。ここのは、しっかり戻したさえずりにたっぷり出汁を含ませた一品で、口に入れると独特の弾力がありながら、出汁がじゅわ〜んと滲み出るのである。ああ、幸せ。
これでお開きねと思っていると、おじさまがシメに近くの蕎麦屋から出前を取るという。ええ〜、まだ食べるの〜(いやね、別に全然入るんだけど、こういう場では私はそんなに欲張らない)ま、ざるそばぐらいだったら、食べられるか。というわけで、ざるそばをずずっとすすって、お開きとなった。
炭水化物が最後の蕎麦だけなので、さほど満腹感があるわけではない。だけど、すっぽん、すき焼き、おでん、そばという異種混合の仕立てに気持ちがすっかりおなかいっぱいになった夜だった。あかんね、こういうところに集団でくるのは。今度は、すっぽん&おでんを、ゆっくり落ち着いて味わいに来たいな。