千夜千食

第219夜   2015年5月吉日

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台湾瑞芳「阿霞龍鳳腿」

台鐵ローカル線にごとごと揺られ、瑞芳という町へ。
駅前で行列に惹かれ、つい並んでしまった屋台で
台湾風さつま揚げのやさしい味に、ノックアウトされる。

 台湾、である。

 初・台湾だ。意外だとよく言われるのだが、どうしてだか今まで機会も、興味もさほどなかった。以前一緒に仕事をしていたT君が、台湾が大好きでしょっちゅう行っていたことはよく知っていたが、彼を魅了している台湾の魅力を聞いたことすらなかった。今となっては迂闊としかいいようがない。

 そもそもは、ゴールデンウィークがいつもより休みの重なりが多く、久しぶりにどこか旅したいと思ったことがきっかけで、それでも当初は鳥取から島根にかけての旅を計画していたのだが、泊まりたかった宿が取れず、それなら沖縄でも行こうかとホテルを調べればべらぼうに高く、こんなに払うんだったら海外に行けるではないかと思ったのである。そして、沖縄の少し先には台湾があることに気づき、JALで航空券の値段を調べると意外とリーズナブルであったのである。その上、ハイアットのゴールドパスポートのポイントを使えば、台北のグランドハイアット二泊分が無料になることも後押ししてくれた。

 いろんな偶然と思いつきが重なり、ついに決行と相成ったのである。

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 昼前に台北に着き、ホテルで旅装を解き、まずは初観光らしく、九份へ行こうと思い立った。ガイドブックによると最寄りの駅は瑞芳で、そこまでは台鐵(台湾鉄路管理局の略称)のローカル線で約50分、そこから九份へはバスもあるし、タクシーでも10分くらいとあった。ホテルからてくてく歩き地下鉄MRTに乗り、台北で下車。隣接している台鐵の台北駅で切符を買い、瑞芳をめざす。

 何を隠そう。私は、けっこう乗り鉄なのである。台鐵のローカル線(正式には區間車という)は古めかしさが絶妙な按配で、子供のときに乗った予讃線とか高徳線を思わせる郷愁を誘う佇まいである。列車は、台北の街の中を縫って走り、やがて郊外に出ると懐かしさを感じさせる風景が車窓に広がった。子供のように窓に向かって膝座りしたくなる衝動を何度となく抑えつつ、こういう状況を体験するだけで台湾に来た値打ちがあったと心の中で快哉を叫ぶ。

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 瑞芳到着。九份行きのバスを探そうと駅前に降り立つと、真正面に「待ってました〜」とでも言いたくなるような屋台が立ち並んでいる。その奥にはちょっとした市場も見える。これは行かずにはおられんだろうて。

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 屋台の中にひときわ繁盛している店があった。行列が凄い。何を売っているのかよくわからないけど、こんなに並んでいるのだから旨いものに違いない。こういう勘はいいのだ。時間もたっぷりある。並びながら看板を見ると、「阿霞龍鳳腿」とある。腿はわかる。阿霞はうーん、わからない。龍鳳は何かの肉であろうけど見当もつかない。たぶん、鶏か鴨の腿をどうこうしたものであろうと推量する。

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 しかし列は遅々として進まない。ひっきりなしにバイクで乗り付け、大きなビニール袋を受け取り去って行く人が多いせいである。あれは予約しているのだな。ううむ、「阿霞龍鳳腿」いったい何なんだろう。30分は並んだ。少しずつ列は進み、ようやく屋台の中で作業しているのが見え始めた。正面には山になった鶏だか魚だかわからないパテ状の物体。その中には刻んだキャベツや人参のようなものが見え隠れしている。それを適量とって網脂でくるくる巻き、串を刺し、油が入った鍋の中に投入する。きつね色に揚がったものは、見るからにぷりぷりして、旨そうである。屋台の柱には、新聞記事や台湾の有名人らしき人が推薦している雑誌記事も貼ってあった。期待が高まる。

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 いよいよ順番が来た。とりあえず、そのぷりぷりを指でさし、「サン」と3本指を立てる。1本10元。日本円にして40円程度である。さて、この熱々をどこで食べよう。椅子はまわりにはない。仕方ないので、バイクや自転車を停めてある店の軒先で、おそるおそる熱々にかぶりつく。ぱりり、と皮がはじける。わ〜お。なんだ、これ。台湾風さつま揚げの出来たて。馬鹿馬ではないか。ぷりぷりの弾力である。網脂で巻いているのを見て、ぎとぎとかもと少し心配していたが、からりと揚がっている。おばちゃんが上からかけてくれた特製のたれがまた旨い。パテ状のものはたぶん魚のすり身であろう。キャベツや人参がほんのり甘く、素朴でやさしい味わい。揚げ物なのにくどくなく、3本はあっという間であった。

 屋台にしてこのレベル。懐かしい風情の列車にごとごと揺られ、到着した町で食べたのは昔おばあちゃんが作ってくれたおやつを彷彿とさせるようなやさしく、あたたかい味。これで、私は一気に台湾にハマってしまったのである。

 後日談。

 台鐵のガイドブックにこの店が載っていた。瑞芳駅前の「阿霞龍鳳腿」。龍鳳腿は、このへんの漁村でよく作られている郷土料理で、新鮮な魚のすり身に、キャベツ、人参、タマネギなどを刻み、豚肉も少々混ぜ、豚の網脂で巻いたものを弱火でゆっくり揚げる。見た目がチキンレッグのようなので、龍鳳という名がついたのだそうだ。現地では知らない人がいないくらいの超有名店であるらしい。阿霞というのは店主の名前であった。