台北・小吃「秀蘭小吃」
歩き疲れた夜の胃にやさしい
白菜獅子頭という名の土鍋仕立ての一品。
肉団子がこんなに柔らかく、旨いものだったとは・・・
小吃というのは、台湾式の軽食をさす。吃は日本語では吃音という言葉ぐらいでしか馴染みがないので戸惑うのだが、中国語では食べるという意味になるらしい。軽く食べるから、小吃。シャオチーと読む。日本でいうとうどん屋とか蕎麦屋のたぐいかな。
ところがこの店はうどん屋や蕎麦屋以上に、立派であった。店構えも、レストランのそれである。この日は市場で朝ごはんをしこたま食べた後、MRTに乗って北投で温泉に入り、それから夕日が美しいという淡水に出かけた。けっこう歩いたのと、淡水でちょこちょこ買い食いをしたので、夕方までお腹はもったが、台北に帰る頃にはそれなりに空腹になっていた。
ガイドブックにひときわ食欲をそそる一品があった。白菜獅子頭。そう、第222夜の麺屋さんで、気になっていた白菜獅子頭麺の鍋バージョンである。白菜のお鍋で巨大な肉団子が入っている。これを出すのが「秀蘭・小吃」である。店があるのは永康街。マンゴーかき氷を食べたあたりである。すでに土地勘はある。住所を頼りにまっすぐ目指す。
すでに8時を回っていたので、スムーズに席に案内される。圧倒的に家族連ればかりである。こちらにもちゃんと日本語メニューが用意されている。件の白菜獅子頭は、獅子頭の数を指定できるとあったので、一頭だけお願いする。鍋仕立てだもんな。食べきれなかったら悪いしな。と、ブツブツ言いながらも、獅子一頭だけというのがどうもひっかかる。一頭だけだから、他のものも何か頼もう。ガイドブックには、旨そうな鶏も載っている。鶏は好物であるので指差し注文する。うん、まあ、これぐらいだったら、なんとか食べられそうだ。
やってきた白菜獅子頭。白菜と肉団子の土鍋煮である。団子の大きさを見て、やっぱり一頭で我慢してよかったと思う。巨大な団子なのだ。さすがに獅子頭という名がつけられているだけのことはある。箸で割ると、中はほんのりしたピンク色。ひき肉はみっしり詰まっているのに、軽く、柔らかく、ジューシーで、やさしい味がする。混ぜもののほとんどない、正真正銘の豚の肉団子。ううむ、こんな旨いの久しぶりに食べた。具は白菜だけというシンプルな潔さが非常によろしい。この白菜がまた絶妙にくたっとしているので、鍋いっぱいに入っていてもどんどん胃におさまっていく。スープはあっさりしつつ、ほんのり醤油味。まったくクドくなく、こちらもすーっと胃に入る。
蒸し鶏は、しっとりと鶏の滋味が感じられるいい按配に蒸されている。蒸した後、ちょっと冷たくしているのが、鶏の皮まわりのゼラチン質にぷるんとした食感を生んでいる。骨のまわりのお肉がまた美味しいのよね。あっと言う間に、獅子頭も鶏もぺろり、である。
ここは、30年以上続く、正統派の上海料理。中国江蘇省からやってきた先代からの味を受け継いで、家庭料理を作り続けている。料理人は女性ばかりだそうだ。そのせいかどうかはわからないけど、こちらの腹具合にそっと寄り添ってくれるような、素直で、やさしい味だった。
しっかり店の名前と場所をアタマに入れた。また、次回の旅にも来たい優秀シャオチー。