千夜千食

第242夜   2015年6月吉日

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京都老松の「夏柑糖」

夏みかんの果汁を寒天で固めた名物菓子。
ゼリーでなく、寒天というのがたいへんよろしい。
いつか、ひとりで一個ぺろりにチャレンジしてみたい。

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 京都から客人がやってきた。

 手土産は、なんと老松の「夏柑糖」である。関西で茶を嗜むものとして老松という名を聞けば、とうてい心おだやかではいられない。裏千家でも御用達の老舗であるし、何度か訪れた大徳寺での献茶式とかそのあと開かれる茶席でいただいたお菓子は美味なだけでなく、ある種の風格のようなものがあったと記憶している。なにしろ、正式な店名を有職菓子御調進所 老松 というのである。朝廷の儀式に使われるようなお菓子を作ってきた名店なのである。

 箱を開けると、大ぶりの夏みかんがごろりと横たわっている。凄いインパクトである。それに夏みかんというのが、昨今では珍しい。もともとはこのお菓子、夏みかんの果実に少しの砂糖と寒天で、上七軒のお客様たちのために作っていたものだったとか。ところが、昭和50年以降、グレープフルーツが自由化され、夏みかんも甘夏に作付け転換され、次第に姿を消していったことから、原産地である萩のみかん農家に依頼し、種の保存と品物の確保に努めてきたのだという。今では、和歌山の農家にも依頼し、甘夏からまた夏みかんを育てる協力農家も増え、「夏柑糖」は作り続けられているのだそうだ。

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 早速箱から取り出し、皿に載せてはみたが、夏みかんが大きすぎて、どうも収まりが悪い。上のふたを取ると、中はぷるんぷるんの寒天がきっしりと詰まっている。美味しそう。これを包丁でスパッと二等分し、別の皿に持ってみた。うん、白い皿より、こういう少し枯れた色あいの皿の方が夏みかんの色が鮮やかに映える。

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 スプーンですくい、ふるふるの寒天を口に運ぶ。すうっと口の中で溶けていくその感触。ゼリーとは違うやさしい口どけ。夏みかんの果汁が口の中にほとばしる。ああ、夏だ。夏休みの甘酸っぱい味だ。子供の頃、おばあちゃんと一緒に食べた懐かしい味の記憶がよみがえってくる。昔は、むいた夏みかんに砂糖をつけて食べたっけ。幼ごころが喚起される忘れ難い美味しさ。

 この「夏柑糖」、毎年4月1日に製造を開始する。その年の夏みかんの取れ高によって、終了時期はまちまちであるらしいので、毎年夏まであるかどうかはわからないのだとか。来年は、早めに予約して、ぜひとも何度かたのしみたいものである。

 ごちそうさまでした。