四回會   2014年3月吉日

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「杉本文楽」&「宮本」

杉本文楽に、新進気鋭の割烹。
メンバー全員自前の着物で
浪花の意気地を味わい尽くす。

 友人のガラスアーティスト孝子さんが、杉本文楽に誘ってくれた。なんでも、いい席を取ってくれるお知り合いがいるらしい。で、一枚チケットが余ったので、回會メンバーなら一人くらい誰か行くかしらんと誘いのメールを放った。

 ところが、メンバー全員が行くと言い出したのである。

 チケットをあと三枚無理してとってもらい、全員参加なら「四回會」ではないかと気づく。幸い、大阪の割烹「宮本」の内装は三浦さんところの三角屋さんの仕事である。一度は三浦さんと行きたいと思っていたのである。当日の次第としては、杉本文楽鑑賞の後、我が社のサロンでしばし休息をとり、夕刻「宮本」へ。その後は都島にある秘密バーを予約した。

 回會の掟その一は、「着物を着る」である。一回會のとき、貸衣装だった西井さんは、この日のために着物を誂えるという。ない藤の若旦那が今回もコーディネイトして、西井さんのファースト着物が間に合った。一緒について行った東さんも今後必要になるだろうからと単衣を誂えたそうだ。素晴らしい。そう、単衣があると6月と9月にも回會が開催できる。まことにみなさん、素晴らしい心がけと男気である。

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 杉本文楽は、大阪フェスティバルホールでの上演。メンバー全員が初文楽だったが、なにしろ松岡師匠が文楽は見ないといけないと常日頃おしゃっているので、全員気合いが違う。本来なら伝統的な文楽を先に見るべきであろうが、杉本文楽は三月現在のトレンドになっているし、今の文楽では上演しなくなっている観音廻りを復活させたという意味でも話題になっている。何であれまず見る、行くということが大事である。

 舞台は漆黒の闇である。そこにひとり遣いの人形がすうっと浮かぶ。本文楽では人形遣いの顔は見えるのであるが、杉本文楽では黒装束で顔は見えない。なんでも、人間国宝であろうが顔は隠してもらいますと言ったとか、言わないとか。だから主人公であるお初(人形)だけが闇の中に浮かんでいるのである。バックにはアーティスト束芋によるイラストレーションが動く。観音廻りは注意深く聞くと、韻が重なり、独特の文章であることに気づく。文楽の大夫さんは、歌舞伎とはまた微妙に違っていて、語りが上手い。いわゆる浄瑠璃である。が、節回しも独特だし、この観音廻りを耳だけで理解するのはきわめて難しい。しかし文楽には床本というテキストがあり、わからなくなればこれを見るといいのである。よくできている。(ちなみに本文楽では、ちゃんとこの床本が字幕スーパーで舞台の上に出る。心強い)

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 杉本文楽、演出はご存知現代美術家杉本博司さんによるものである。本文楽を観たことがない身としては、一体全体舞台が良いのか悪いのかの判断のしようがない。だけど、演目の「曾根崎心中」を歌舞伎では何度も観ているので、筋も展開もわかっている。それをよすがに舞台を観ると、何と言っても物言わぬ人形の表情の豊かさよ。歌舞伎ではお初といえば坂田藤十郎丈で、この人はいくら名優とはいえもう相当なお歳である。近くで観るとビジュアル的にはかなりきついものがある。ところが人形のお初は永遠に年をとらないのである。うつむく姿のいじらしさ。いやいやするときの愛らしさ。遊女とはいえ十九歳の娘の可憐さが感じられるゆえに、ラストで徳兵衛に殺してと乞う素直な一途さが際立つ。そこに絶妙な大夫の語りがかぶされば、もうすっかり文楽にイチコロになる状況はそろっているのだった。

 終演後、しばし私のオフィスに移動し、杉本博司さんの写真集や著作を見ながら現代アートについて歓談。時分になったので連れ立って割烹「宮本」へとゆるゆると移動した。入店する前に、全員自前の着物姿を撮影。カウンター8席しかない宮本、回會メンバーにゲスト3名のちょうど8名で貸し切りとなった。都合がよい。多少、騒いでも(騒がないけど)他のお客様には迷惑をかけることがない。

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 三月の宮本。週が開けると四月なので、もうお膳はすっかり春である。赤貝、鳥貝、みる貝。柔らかな筍に山菜・・・お酒はお気に入りの新政のナンバー6をみんなでぐびぐみ。8人もいるからまたたくまに一升瓶があいてしまった。続いて出されたのが裏鍋島という凝った酒。鍋島という文字を裏にしているラベル。判じ物のようであるが、これは隠し酒ということである。わざわざそれを言わなくても、ラベルでそれがわかる人にはわかるようになっているのが、日本のものづくりの面白さ。これもぐいぐいと飲む。みんなで楽しく、調子よく、飲っていたので、ひとつひとつの料理の記録を取り忘れてしまった。今となっては、何をカウンターで話していたかの記憶もおぼろげではあるのだが、大勢での楽しい時間とはそういうものかもしれない。カウンターだと横一列になるので、途中何度か席替えというのもあった(ような気がする)。宮本さんとも、料理のこと、店のしつらいのこと、うつわのことなどいろいろ話したような気はするのだが、それも覚えていない。が、たいそう充実した時間だったことだけは、確かなことである。

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 すっかり気分よく出来上がった面々は、今度は秘密のSバー(第53夜・109夜参照)へと繰り出した。この日はお休みであったが、8名で伺うからと無理を言ってお店を開けていただいている。せっかく回會メンバーがそろっているので、あのジントニックを試していただきたいという魂胆である。もちろん、みなさんジントニックの味にも、マスターの語りにも満足していただき、三浦さんなどは予想通りデザートのケーキも美味しいと食べたことは言うまでもない。

 杯を重ねた後、京都組はタクシーで帰っていった。大阪泊まりの残り二名におつきあいし、もう一軒バーをはしごして、四回會も無事に終わった。さすがに、今回はシメのラーメンとかの赤提灯系はなかったことに胸を撫で下ろす。

 やっぱりフルメンバーだといいね。気合も、意気地も、違う。

◎追記

写真[17]

 今回、全員の足元がご存知「祇園 ない藤」御製であるが、右端二人、そして真ん中の私を置いて左の方々がはいているのが、今話題のビーチサンダル『JOJO』である。ビーチサンダルとは思えない出来栄えで、このようなちょっとした遊びのシーンの着物にだって、似合ってしまう。さすがに女性の着物のときはカジュアルすぎるだろうけど、夏の浴衣にはバッチリだし、私はむしろ夏の普段のカジュアルウェアに合わせている。現在、国内だけでなくアメリカ西海岸のセレクトショップでも売られているし、パリでもデビューしている。本体の色、前ツボ、花緒を4色から自由に選べるだけでなく、今年は新色も登場している。

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