千夜千食

第89夜   2014年6月吉日

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油面イタリアン「メッシタ」

シェフの気合と心意気が伝わってくる
ガツン系の骨太イタリアン。
いっぺんでファンになりました。

 イタリアンも大好きなのであるが、近場(ホテルから)になかなか適当な店がない。こういうときはモレスクの福島さんに聞くに限る。すると、僕が凄く応援している女性シェフの店があると、ここを教えてもらった。調べるとなかなか予約が取りにくそうであるが、運良く一発で取れた。こういうのも店との縁かもしれない。

 目黒通りから一本入ったところにある小さな店。カウンターが厨房を取り囲むというレイアウトはよくあるが、こちらはその逆。奥に厨房、そこに向かって3席、後はメニューを書いてある片方の壁、そして路地に面した窓側二面にカウンターがある。客はそこに腰掛けるので、厨房の前のカウンター以外、誰とも顔を合わせないという面白い構造である。そしていたるところに、おもちゃ箱をひっくりかえしたように雑貨が無造作に置いてある。きわめてカジュアルなスタイルの店である。

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 壁の黒板を見ると、どのメニューにもそそられる。一品の量がわからないので、カウンターの中の男の子に聞いてみる。前菜を二品言うと、パスタかメインかどちらかしか無理ではないでしょうかとサジェッションされた。うーん。迷いに迷い、パスタに決める。

 カウンター全10席くらいか。きわめて狭い厨房でシェフは実に鮮やかな手際で次から次へ調理してく。見ているだけで惚れ惚れする段取りである。

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 前菜一品目は生シラスのフリットオクラ添えである。うわあ。何、この大胆な一品。シラスをぐわしと団子状にしてカリッと香ばしく揚げているのである。こんなの初めて食べたよ。シラスの塩気がいい塩梅で、空きっ腹にズドンとくる。そして中は半生。火加減の具合も凄い。素揚げしたオクラも旨い。続いては、穴子の白ワイン煮。あはは。これ、穴子一匹まるまるを白ワインで煮てるんだ。しかも煮る前にカリッと炙った後にワインで煮ているという手の込みよう。穴子の下には、煮汁がしみたくったくたのじゃがいもが隠れてる。もうこの二品で完全にノックアウト状態である。

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 ラディッキオのサラダも大胆素敵。この無造作の美を見よ。フランスではトレビスと呼ばれるこの野菜、シャキシャキで、ちょっとほろ苦いチコリの仲間。この葉っぱをむしって、甘酸っぱいドレッシングで和えた一品。どうしても食べたくてメインをあきらめてまで注文したのは天然真鯛のパスタ。真鯛の身が太めのパスタにからむオイルソース系。見事な塩加減。もういくらでも食べられそう。量は決して少なくない。だけどこの味をこの勢いで食べるなら、メインも充分いけたかもと後悔するも、後の祭り。

 素材そのもので勝負しようとしている。そんな店である。ガシガシ作って、皿にどんと乗せる。見栄なんておかまいなし。だけど、そのストレートさが、かえって料理の旨さを想像させる。「どうよ。美味しいでしょ」シェフのそんな心意気が、ひと皿ひと皿を見るだけで、黙って食べるだけで、ひしひしと伝わってくる。うん、ここ大好き。とりあえず、黒板メニュー全制覇しなきゃ。