千夜千食

第3夜   2013年12月吉日

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京都郊外静原「御殿の昼餉」

素敵であったかいもてなしの形。
京の食材にセンスと遊び心を掛け算したら
食卓はこんなにも愉快になるのね。

 三回會(回會記)の帰路である。

 都合が悪く今回参加できなかった京都の若旦那のお宅に立ち寄りランチをご馳走になることになった。何年か前、京都市内から郊外の静原という処に引っ越ししたとは聞いていたが、その静原がこんな場所にあるとは知らなかった。住所は一応京都市左京区ではあるらしい。全150戸あまりの小さな集落である。さすがに歴史は古く、天武天皇がこの地に赴かれたとき、身も心も静かになったとして、以後静原と称するようになったと伝えられているそうだ。古い歴史のある静原神社をはじめ、愛宕講や烏帽子儀などの貴重な風習、美しい川、田園風景など日本が失ってきたものがたくさん残されており、心が清らかになるような里である。

 めざす御殿は山の中腹に鎮座している。堂々たる平屋の日本家屋である。

 開放的なリビングには心地よい冬の陽射しが降り注いでい、ゆったりとした心地になる。大きなリビングテーブルに腰掛け、ウェルカムシャンパンをいただく。昼間のシャンパンはとてもとても気分をよくしてくれる。若旦那からうやうやしく本日のメニューを手渡される。タイトルは「ヤーヤーヤー 回會が静原にやって来た」である。テーマは「酉の歌を食べる」である。すべてに関係者が関わるイベントなどの暗喩があり愉快な遊び心を感じるし、手書きのメニューにはそれぞれ工夫を凝らしたタイトルがついている。

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 スタートは「ようこそ よろコブカルパッチョ 野菜仕立て」である。鯛の昆布締めにパリパリの水菜がのせてあり、オリーブオイルをたらした一品。木の葉を描いた藍のうつわもセンスがよい。当然シャンパンにもよく合う。続いてパンをトースターで焼きながら、ささっとつくってくれたのは「出会ったス 街道サンド 古漬けは母の味」。鯖サンドである。しめ鯖に大葉、そしてポイントは古漬けたくあんを挟んでいること。お母様が漬けたという古漬けのポリポリした食感がほどよく浸かった鯖と小気味よくマッチして、もういくらでも食べられる。こちらは緑釉あざやかな織部のうつわに盛られて。そして「お得意様ご繁盛 ゑびすパスタ笹入り」。カルボナーラかなと一瞬思うのであるが、実はこの白いのは酒粕である。祇園のゑびす神社の前の酒屋さんで販売されているという縁起物である。これに蕎麦の実をパラパラとふっていただく。ねっとりと甘みのある酒粕がこんなにパスタに合うとは知らなんだ。カルボナーラよりずっと身体によさそうだし、これは自分でも一度試したいと思った。

 聞けば店でのまかないは、若旦那自らがいつも腕をふるうという。キッチンに立つ姿が自然でサマになっているのも、むべなるかな、である。しかも、カウンターの中に立ち、ゲストである我々とシャンパンやワインを飲み喋りながら、ゆるゆると料理していくスタイル。事前の下ごしらえは必要だろうけど、シェフのように目の前で一皿ずつつくってくれるなんて、普段から慣れていないとできないことだ。とくべつさを感じさせずに、とくべつなことをする。こういうもてなしを受けると、気持ちがほっこり、まったりして、とくべつな心地になる。

 こんな旦那、最高やね。奥ちゃまがうらやましい。ご馳走さまでした。