二回會   2013年9月吉日

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歌舞伎座「桟敷シャンパン」

一度は桟敷でシャンパンをという
野望をついにかなえた夜。
陰陽師を観ながら泡でほろ酔い。

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 恵比寿でフレンチを食べた前回がとても楽しかった、またやろう。そんな声を聞いたので、せっかくなのできちんとした倶楽部にしようということになった。どうせなら、名前もつけよう。どうせなら、松岡師匠の縁で知り合った者同士なのだから、師匠に名前をつけてもらおう。すったもんだしたあげく、すみやかに師匠にお伺いをたて、倶楽部の名前は「回會(KAIKAI)」と相成った。松岡師匠がネーミングに要した時間は、ほぼ五分。うーん、と唸りながら、いきなり「かいかい!」と叫びながらこの字を書いてくれた。かいかい?奇々怪々?快快?掻い掻い?面妖な名前である。みんなで「かいかい、かいかい」と言っていると、師匠が「一回會、二回會、三回會・・・」と呟きながらにやにやするのである。「なるほど〜面白い!」今ではもうこの名でなくてはならないくらいなじみ、愛すべき名前になった。

 回會のルールは3つ。一・着物を着る。二・美味しいものを楽しむ。三・日本的なことを経験する。このご時世にハードルが高いものが三つも入っている。だが、そういった遊びを通じて何かが生まれたり、新しく気づけることもたくさんあるだろう。大切なのは、「実際にやる」ということである。

 二回會は歌舞伎に行こうということになった。ちょうど九月の歌舞伎座では「花形歌舞伎」と銘打って海老蔵新作の「陰陽師」をやることが決まっている。決行はそのタイミングに合わせてということになった。

 ない藤のわかだんから連絡があり、「いっぺん、桟敷席でシャンパンを飲みたい」という野望が明かされた。いいね、いいね。私もそんなのやったことない。やろうやろう。新たな展開につき、急遽桟敷席を抑えることに。だが、私の歌舞伎界ゴールド会員枠では枚数が足りない。しかし、そこは大きな声では言えないが祇園の特殊ルートという太いものがあったのである。 だが、当日までに新たな問題勃発。まず、3階の吉兆が桟敷に弁当を運べないというのである。また、わかだんに頼る。歌舞伎通の姐さまから、おすすめの弁当をつくってくれる店を紹介してもらう。後、調達するのはシャンパンと、グラスと、弁当と・・・。シャンパンは当日買えばいいし、グラスは会社にあるプラスチックだけど見た目は本当のシャンパングラスに見えるものがあるので、それを持ち込む。弁当の手配も完璧。するとまたわかだんから連絡がはいる。「あのね、シャンパンはハーフボトルがおサレなようで」と通筋からのアドバイスがあった模様。なるほど、桟敷みたいなただでさえ目立つ場所でのフルボトルはいかにも無粋。なーんも考えんとうれしげにフルボトルを持ち込むとこだった。やはりそれなりに歳取ってくると、何事もこうして周囲からさまざまなアドバイスをもらえ、眉を嚬められたり後ろ指をさされるようなこともないのである。

 満を持してその日がやってきた。三浦さんとは定宿が同じなので、一緒にタクシーに乗り銀座へ向かう。待ち合わせは歌舞伎座横の凮月堂。今回のメンバーは、三浦さん、ない藤のわかだん、東さん。スペシャルゲストは今をときめくアートアクアリウムのプロデューサー木村さんである。

 新作歌舞伎「陰陽師」は言わずと知れた夢枕獏のあの名作である。魑魅魍魎が跋扈する平安の都。謎の怪事件が都を揺るがす恐るべき陰謀へとつながり、都を闇が覆うとき、一人の男が立ち上がる・・・・その名は安倍晴明・・・。陰陽師安倍晴明を染五郎、源博雅を勘九郎、そして平将門を市川海老蔵、興世王を片岡愛之助、俵藤太を松緑、桔梗の前を七之助、滝夜叉姫を菊之助が演じるという、これからの歌舞伎界を背負って立つ花形によるきわめて贅沢な舞台なのである。幕間を二度挟んで三時間あまりの通し狂言である。

 最初の幕間は35分間。いよいよ弁当&シャンパンタイムである。桟敷席にかくしておいた冷えたシャンパン(注・ハーフボトル)を2本出し、シャンパングラスをみなさんに配る。音がしないよう注意深く、シャンパンの栓を抜く。しゅぽっ。それでも一段高くなっている桟敷席なので、シャンパンを注いだりしていると下からの視線を感じる。ご注進はこれだったのね。ハーフボトルにして正解。それでもやはり目立つ。あくまでも控えめに乾杯して、弁当をいただく。こちらも銀座の名店の仕出しにふさわしく、立派でたいへんに美味しい。いいねえ。桟敷でシャンパン。気分はお大尽。

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 軽く酔いがまわっての観劇も、新作歌舞伎のわかりやすさと面白さゆえ、誰一人落ちることなく最後まで楽しめたのは幸いである。終了は8時半。この後は銀座のとあるバーでしばし歓談。本日のスペシャルゲストである木村さんプロデュースの「アート・アクアリウム」を日本橋コレドでやっているというので、着物姿のままぞろぞろと出向く。
 アートアクアリウムとは、世界中から集められた金魚が泳ぐ水槽に、最新かつ奇想天外な演出により度肝をぬくような世界を作り出すアート展覧会。予備知識なしに行ったものだから、そのスケールと場のしつらえ、音楽と光の演出など、すべてにあんぐりと口をあけたまま状態だった。真っ先に心配したのは金魚たちのストレスだが、木村さんによるとそれは何の問題もないとのこと。私がいちばん驚いたのは金魚の種類の多彩さだ。中国で改良に改良を重ね生まれ、鑑賞するためだけに人の叡智を集めて生まれた魚。愛好家にはたまらないのだろうが、私はなんだか切ない気持ちになった。

 このアートアクアリウム、今年はついに入場者数が300万人を超えたそうだ。金魚の妖艶な美しさが木村さんの手によって今年はどのようにプレゼンテーションされるのか、興味深いところである。

 さて、回會はまだまだ続く。アートアクアリウムの会場を出て、さてこれからどうしよう、ということになった。時刻はそろそろ12時に。とりあえず、有楽町まで行けば深夜店がありそうということでタクシーに乗り移動。有楽町に降り立った面々は、ガード下の居酒屋を物色し、焼き鳥屋に入った。といってもここは路地をうまく利用して店の外に机や椅子を置いている。煙草も誰はばかることなく吸い放題。またしても一同は一回會に続いて、着物姿でビール&焼き鳥を楽しんだのである。

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 フレンチも、シャンパンも、最期の〆のラーメンや焼き鳥にはかなわないのか。いや、それも含めての企画になりつつある回會。うん悪くない。

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