千夜千食

第8夜   2013年12月吉日

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NY鮨 「sushi of gari」

前代未聞で、空前絶後。
ここだけでしか食べられない
ガリさんが握るオリジナル鮨。

 昔、ニューヨークアッパーイーストに住む友人の家の近くに「ガリのすし」という店があった。店名がいかにも面白そうなので友人に「ここどうなの?」と聞くと「おいしいらしいよ」とは言う。だけど彼女の行きつけの店は他にあって、一緒に鮨といえばそこへ行くのだった。だから、名前に惹かれながらも、のれんをくぐる機会はなかった。

 二年前のことだ。別の友人が「sushi of gari」に行きましょと何度も誘うので予約してもらい出向いた。少し変わった鮨と聞いていたので、正直そんなに期待はしていなかった。行ってみて気がついた。「sushi of gari」は、あの「ガリのすし」だったのだ。店内は日本人だけでなく、ニューヨーカーで賑わっている。予約もかなり取りにくいという。店名のガリというのは、てっきりショウガのガリだと思っていたが、これはオーナーである杉尾雅利さんの音読みニックネームであった。そのガリさんが握ってくれるのは、カウンター前わずか3席のみ。予約するときは「ガリさんの前のカウンター」と指定しなければならない。

 で、肝心の鮨だが、ここの鮨は完全オリジナルである。江戸前とか、いわゆる日本の鮨を期待していくところではない。そのかわりガリさんだけのアイデアあふれる、びっくりするような鮨が食べられる。

 からすみ大根や鯛の昆布締めくらいは、想像できるだろう。だが「ヤリイカの耳を漬け込んだものにうずらの黄身をのせる」鮨の味をイメージできるだろうか。「鯛の中落ちに温泉卵で和えたサラダをのせて、その上に揚げた蓮根をつぶしてクリスピー状にしたものをかける」鮨はいったいどんな歯ごたえなのか。「カンパチに刻んだハラペーニョ」をのせた鮨は、一体全体辛いのか、旨いのか。ひとつとして普通の鮨は出てこない。徹頭徹尾、創意に満ちた鮨のオンパレードだ。これが、「もう食べられない」とストップをかけるまで、延々と出される。

突き出し

 初めてカウンターに座って、初めてガリさんの鮨を味わったときの衝撃は未だに忘れることができない。「えっ、凄い創作系」とまず見た目で思って口に入れ、素材と素材が口の中で合わさりまったく別の素材を食べているようにダイナミックな変化を遂げるのを味わう驚き。想像するに、ガリさんがニューヨークに来た頃は、今のように流通もよくないし、日本の鮨を握るには素材に限界があったのだと思う。だから、築地にあるような本マグロの大トロの食感を出すためにこちらのマグロの上に雲丹をのせたり、大味なひらめに昆布をのせてみたりしたのではないか。当初は代替的に作っていたものが、それはそれで面白く美味しく、やがてガリさん自身が考える鮨のベースとなって、ネタに不自由しなくなった今はそのダイナミックなアソートの技が磨かれ、ガリさんだけが握る鮨に昇華した。勝手に私はそんなふうに思っている。

 江戸前は日本に戻れば死ぬほど食べられる。だけど、ガリさんの鮨はニューヨークに来ないと味わえない。つまり、私にとっては年1回のスペシャル鮨なのだ。

 実はこの日、ガリさんはもう引退したという噂があって、二番手の人が握ると聞いていた。友人もそれなら行かないと言い、結局一人で出向いたのだった。ところが、行けばカウンターにガリさんの姿があるではないか。「え〜ガリさん引退したって聞いたけど」と言うと、満面笑みのガリさんは「俺のこと、殺さないでよ〜」と言いながら、風邪を引いていたので店に出るかどうか予約の時点ではわからなかったのだと説明する。ああ、よかった。これで今回も来た甲斐があったと胸を撫でおろす。後で友人にそのことを伝えると、とても悔しがったのは言うまでもない。

ガリさん

★ここの鮨は記録しておかないと絶対憶えられないので、
今回はしっかり記録した。23貫。ああ、お昼抜いてくるんだったと後悔。

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1・からすみ大根
2・鯛の昆布締めにさらに昆布をのせて
3・あぶった銀だら
4・ずわい蟹に雲丹をのせたものを炙って
5・づけのサーモン(皮がカリカリ)
6・ヤリイカの耳を漬けこみ軍艦にして、うずらの黄身をのせて

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7・ぶり(すんごい脂)
8・西海岸のぼたん海老に柚子味噌をのせて
9・大トロに昆布パウダーをかけ、その上から醤油を落とす
10・サンタバーバラの雲丹にイクラをつぶしたソースをかけて
11・毛ガニを軍艦巻きにし、溶かしバターをかけて
12・鯖に胡麻和えソースをからませて

13・鯛の中落ちに温泉卵で和えたサラダをのせて揚げた蓮根をつぶしてクリスピーに(残念ながら撮り忘れる!)

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14・マグロをユッケ風に味つけして、海苔の天ぷらの上に
15・金目鯛の上に乾燥芽かぶを刻んで
16・カンパチに刻んだハラペーニョのせ
17・ホタテに梅マヨネーズ
18・バター焼きした太刀魚
19・ミル貝にあん肝をつぶしたソースがけ

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20・牡蠣のせグラタン
21・縁側に鶉のポーチドエッグをのせ、トリュフオイルをかけて
22・大トロ炙りにニンニクショウガたれ
23・白菜漬物に雲月の小松昆布刻み