千夜千食

第7夜   2013年12月吉日

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MOMA「THE MODERN」

何度行っても鮮烈な驚きがある
アメリカンキュイジーヌの最先端。
MOMAの中にあるロケーションも大好き。

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 MOMAが谷口吉生氏の新たな設計によって蘇ってからはや10年。リニューアル当初はいつ行っても長蛇の列で、MOMA自体に行くのがうんざりするほどであったが、ここがあることを知ってからはMOMAを素通りしてでも通うようになった。歩き疲れちょうど時分になったので、試しに入ってみたのが5年ほど前。以来、ニューヨークにいるときは必ず一二回は訪れる店のひとつになった。

 魅力は三つほどある。

 ひとつは、やはりそのアメイジングな美味しさだ。勢いのあるシェフならではのチャレンジと工夫にいつも満ちあふれている。それにプラスして素材×食感×盛りつけの三位一体パワーにも毎回驚嘆させられている。ふたつめはなんと言ってもロケーションである。美術館の中にあるというのはこたえられないアドバンテージだと思う。それに大好きだった「Sex and the City」の映画版でキャリーがビッグとの結婚を報告するシーンで使われたというのもポイントが高い(笑)。みっつめは、インテリアも含めた雰囲気。なにしろダイニングルームからはMOMAの彫刻の庭がきれいに見渡せる。冬しか行ったことがないが、晴れの日だけでなく、雨の日も雪の日も経験済みだ。

 中はダイニングルームとバーとに分かれている。バーはカウンターも含め予約がなくても比較的スムーズに入れるが、ダイニングルームの方は予約がないとなかなか座れない。それぞれメニューが違うので、どちらも経験することをおすすめする。

 今年はまずMOMA鑑賞の日のランチにバーを攻めた。

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 メニューは1・2・3のゾーンに分かれていてそれぞれから好きなものを選ぶというカタチになっているが、一品だけでもかまわないというのが気軽でよい。だけど、いつもつい欲張ってしまう。で、アペタイザーはツナのタルタル。上にかかったカリカリしたスパイスがツナと合わさって、予想外の食感を生み出す。ちょとしたことだろうけど、いつもこの異素材ミックスというのにガツンとやられてしまう。メインは白身の魚らしい向かいの人が食べていたのを指差して(笑)。ソースには葱が入っているが、この色の組み合わせは日本人としては度肝を抜かれる感覚だ。だが、カリッと揚げられておりとても美味しい。これで終わるつもりだったが、視床下部が我慢してくれず追加でチョリソーを頼む。こちらは、ザワークラウトとの相性が抜群だった。いつも何年かかけて全メニュー制覇しようと目論むのだが、結局毎回同じようなものばかり食べてしまう。帰りに明後日のダイニングルームのランチを予約する。

 翌々日のランチ。

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 今回案内された席は、バーを背にして中庭を正面に見ることのできる最高のシート。しかも椅子ではなく大好きなハイバックのソファ席。クッションを思いっきり後ろにはさんでリラックスする。そしてまずはシャンパン。旅しているときの楽しみのひとつが昼間に飲むシャンパンだ。大型のフルートグラスに気前よくなみなみとついでくれるところも気に入っている。アミューズはグリーンのスープ。この微妙な量が食欲を増進してくれる。アペタイザーは、ローストしたロイヤルマッシュルーム。この斬新なスクエアフォルムを見よ。ムール貝やトーストしたアーモンドなど異なる食感が、アリッサソースでまとまっている。イベリコ豚がスプーンにささって添えられているのがご愛嬌だ。お次ぎはエルサレムアーティチョーク(キクイモ)のスープ。聞いたことのない野菜だが、ラディッシュとアーティチョークを足して二で割ったような味で悪くはない。スープ中にはふわとろの卵が隠れてい、卵好きにはたまらない悪魔の味だったし。メインはローストポーク。脂とブラックベリーソースのマリアージュを楽しむ。こちらのパンは、山羊のバターと普通のバターの両方を味わうことができるのも素敵なのだ。いつも交互に楽しむ。デザートの完成度も言うまでもない。

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シェフはジャン・ジョルジュで腕を磨いたガブリエル・クルーザー。フレンチをベースにしたアメリカン・キュイジーヌであるが、世界中の素材という素材を集め、使いたいものを選び、自由な発想と卓越したテクニックでひと皿ひと皿を吟味しているという印象がある。それが、世界中の最新が集まってくるここニューヨークの近代美術館の中にある。かつてTHE MODERNと呼ばれたMOMAに代わってここがTHE MODERNと名付けられたのは当然と言えば当然なのかもしれない。