千夜千食

第51夜   2014年3月吉日

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名物の「梅欄やきそば」

横浜中華街なんて大昔に行ったきりだけど
こんなユニークな焼きそばチェーンがあるんだね。
行ったのはフェスティバルプラザの中にある支店だけれど。

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 話題の杉本文楽にお誘いいただいた。実は別件でも行くことになっていたのだがイシス編集学校のお友だちからの願ってもないお誘い。今年は文楽イヤーにしようとも思っていたし、連チャンで観劇するのも酔狂とばかり、大喜びで飛びついた。

 せっかくだからランチをご一緒しましょうということで、「梅蘭」で待ち合わせすることとなった。フェスティバルホールが、えらい立派になっていることにまずは驚く。その名も中之島フェスティバルタワーと言う。最後に旧ホールのコンサートに行ったのは誰のときだっけ。思い出せないほど昔である。そして、タワーと言うくらいだから、中身はホールだけでなく、オフィスはもちろん最上階にはフレンチレストラン、中層には屋上庭園や朝日カルチャーセンター、二階と地下一階にはレストラン街まである。完璧にいまどきのタワービルなのである。

 めざす「梅蘭」はその地下一階にある。横浜の中華街で創業25年。本場の中華料理はもちろんだけど、ここをメジャーにしたのは何と言ってもこの特製やきそばらであるらしい。

 メニューには当店自慢とある。さらには、「カリッと焼かれたやきそばの中には、あつあつのあんかけがたっぷり。今まで食べたことのない美味しさが口いっぱいに広がります」と文言がしたためてある。あつあつの“あんかけ”ではなく、あつあつの“あん”であろうとツッコミを入れたいが、まあ言いたいことはわかる。

写真[1]写真

 前菜に蒸鶏をいただき、牛肉入り辛口梅蘭やきそばと海鮮入り梅蘭やきそばを注文し4人でシェアした。焦げ目がついてカリカリになったやきそばは見るからに食欲をそそる。これをフォークとスプーンで四等分。切ったそばから中のあんがとろりと出てきて、パリパリに乾いていた麺が急にいきいきと輝き出す。こういうのワクワクしますね。食感もとてもよろしい。普通はパリパリの麺の上にあんをかけるという常識を、くるりとひっくり返したこのやきそば。アイデアが秀逸である。「ただのやきそばじゃオモロない」という大阪っぽい精神を感じますな。横浜の店だけど。

 こういった逆発想、探せばけっこうありそうだ。すぐに思い浮かぶのは、てっぺんを割ってとろとろのオムレツを逆開きにする近頃流行りのオムライスとか、すでにルーとごはんをまぜまぜしている大阪自由軒のカレーライスとか。いろいろ考えていたら、はた、とおはぎのことを思い出した。祖母がよく作ってくれたおはぎはあんをもち米でくるんできなこをつけるスタイル。長年それがおはぎと思っていたが、大人になっておはぎやさんで見たものは、祖母のスタイルではなく外側をあんでくるんだスタイル。あの中身が何なのか。別のあんが入っているのか、それとももち米が入っているのかは長らく謎だった。食べてみればなんてことはない。祖母のスタイルの逆発想だった。要はおはぎの外見にバリエーションをつけるという手段であろう。調べてみると我がふるさとうどん県ではあんを中に入れるのがおはぎで、外にまぶすのをぼたもちと呼ぶらしい。ふうーん。一説には春の牡丹の季節に食べるのが「ぼたもち(牡丹もち)」で、秋のお彼岸の萩の季節に食べるのを「おはぎ(お萩)」と言うのだそうだ。なんと美しい見立てだろうね。もちろん、あんが外でも中でもおいしいものはおいしいし、どっちでも別に変わりはない。

 あんが中に入っている梅蘭の名物やきそばを食しながら、かようにおはぎやぼたもちのあんのことまで考えてしまった。連想は楽し。