千夜千食

第54夜   2014年4月吉日

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白金「トリッパのクスクス」

別々に食べたことはあるけれど
合体すると、また飛躍的に美味しくなるのね。
これけっこうメジャーなメニューらしい。

 好き嫌いのない私であるが、いわゆるホルモン系というものを積極的には食べない。だいぶ前に女子のあいだで人気だったモツ鍋も食べたことないし、ホルモン焼きというのにも一二度しか行ったことがない。行けば、それはそれでおいしく食べられる。だけど、選択肢の中にこの分野は完全に欠落しているのだ。

 ところが、気がつけばイタリア料理のホルモン系というのは好んで食べている。その代表選手がトリッパである。昔は、オッソブッコも好物であった。こちらは骨髄であるから厳密にはホルモンとは言わないけれど。トリッパはご存知ハチノスをイタリアンなハーブや調味料でぐつぐつと煮こむ定番料理。イタリアのおふくろの味という感覚だろうか。それにしても、トリッパとかオッソブッコというイタリア〜ンな語感と、モツとかホルモンとかの泥臭〜いニュアンスでは舶来感(古い!)が雲泥の差である。いや、別に舶来のものがいいというわけではないのだが。

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 とある日の白金モレスクで。桜鱒のソテーに菜の花、新ごぼうに小海老のフリット。ブイヤベーススープまではすっと決まったのだが、メインは何にしよう。すると黒板に、トリッパのクスクス添えというメニューを発見。トリッパもクスクスも好物。それがダブルで合体している!

 クスクスが日本上陸して久しいが、初めて食したのはもう三十年近く前のニューヨーク。たしかABCアベニュー界隈の相当にファンキーなモロッコ料理の店だった。ラムの煮込みスープがたっぷりしみ込んだそれは未経験の味わいで、小さなパスタのようでもあり、形状は米と似通っているのにやはり米とは異なるもので、軽く、スムースな食感に夢中になったものである。当時はシチューやスープたっぷりの煮込み料理をかけるというのが一般的な食べ方だったように記憶している。そのうち、サラダはもちろんファルシの中身やフレンチの素材としてもポピュラーになり、タジン鍋が流行りだした頃にはほとんどセットのようになってすっかり日本にも定着した。

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 そのクスクスがトマトソース煮込みに添えられている!わくわくしながら、まずはそのままスプーンで口に運ぶ。よく煮込まれたとろとろのトリッパがトマトソースに溶け込んで、しっとり優しいママン(シェフ?)の味わい。すーうっと優しく胃袋を撫でる感じ。今度は、小皿に添えられているアリッサソースをひと匙加えてみる。するとたちまち、エキゾチックな衝撃が舌にやってくる。ペッパーとにんにく、クミンやパプリカ、コリアンダーなど、異国情緒漂うスパイスが鼻孔にまとわりつく。イタリア料理とモロッコ料理の合体。いや、別にそれを無国籍料理なんて大げさに言わなくても、この手のフュージョン、たらこスパゲティの昔から日本人はごくごく自然に取り入れてきた。そしてこういう料理が、あたりまえのように黒板メニューににあるところがモレスクのいいところ。大好きな理由のひとつでもある。ぜひ、定番化してほしいな。