ある昼下がりの「四川」
酸辣湯に麻婆豆腐に豆鼓炒め。
微妙に辛さの方向が違う三つの味わいを
堪能した山椒&唐辛子尽くしのランチ。
またまた「四川」である。
というか、週末に東京に滞在しているときの80%以上は、四川でランチを食べている。こちらのランチは、小さな前菜とスープ、ごはん、麻婆豆腐にプラスして月替りで4品の中から好きなのを一品選べるのである。普通の人なら充分におなかがいっぱいになるクオリティと量である。日曜、もう後は帰るだけというときには、これに白ワインを一杯プラスする。週末のちょっとした贅沢である。
さて。4月のセレクトメニューの中に非常に気になる一品があった。『ホタルイカの豆鼓炒め』これがね、めっぽう馬鹿馬だったのだ。なにより、ホタルイカが惜しげもなくゴロゴロと入ってる。「中華でもこんなふうにホタルイカを使うのね」と給仕してくれる人に言ったら、「シェフが富山出身ですので」と返ってきた。いいよねえ、こういう郷土愛。本場でホタルイカなんて使うのだろうか。きっとこれ、日本人ならではのセンスに違いない。それに生でいただいても新鮮であろうと思われるホタルイカをこんなにふんだんに使っているなんて。
素材はいたってシンプルである。ホタルイカ。しめじ。白ネギ。ピーマン。それをぴりりと辛い豆鼓という調味料で炒めた一品。豆鼓(トウチ)というのは、大豆を醗酵させ塩漬けにした調味料で、けっこう塩辛い。中華では海鮮系の炒めもので活躍する調味料だが、辛さの中に大徳寺納豆や味噌にも通じる独特の風味がある。
この日のスープは酸辣湯(サンラータン)だった。そして定番の麻婆豆腐。ここにホタルイカ豆鼓炒めの辛さが加わって、もう口の中は唐辛子や山椒などの香辛料と発酵した調味料が、醤醤踊りまくっているのである。
ひとつ。辛くて酸っぱい酸辣湯。
ひとつ。辛くて舌が痺れる麻婆豆腐。
ひとつ。辛くてコクのある豆鼓炒め。
もうこれは、辛さが三つ巴となって襲ってくる四川祭りなのである。
白いご飯がこれほどありがたいと思ったことはない。