千夜千食

第63夜   2014年4月吉日

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引き続きの「ナイル」

ムルギランチ以外も美味しそうなのに
結局あれこれ悩んだ末にチャレンジできない。
だけど、最近すごくグッドな裏ワザを発見した。

 ナイルのメニューは、実はとても充実している。なのに、食べたことあるのはムルギランチと卵クシンバー(スクランブルエッグ)くらい。長年通っているのにこれではいけない。

 そこで、ある日意を決して、別メニューに挑戦することにした。まず、トマトスープ。(海老様お気に入りだそうだ)これは濃厚なトマトジュースに塩コショウがくっきり効いている。そして海老カレー。しかし、海老カレーを待っている間も、周りはみんな例のムルギランチを食べている。それで、はた、と思いついたのである。ナイルさんに、ムルギランチのごはん抜きってできる?と聞けば、できるよですって。そうなのだ。ごはん抜きにすればムルギランチと海老カレー、両方食べられる!

th_写真[5]th_写真[7]th_写海老カレー真[6]

 海老カレーには白いご飯がついてくるので、ちょうどいい。

 右側から海老カレー、左側からムルギランチのルーを交互にかける。なんと贅沢なことをやっているのだろうと、我ながらうっとりしてしまう。海老カレーは、たまねぎがどっさり入ったサラサラのカレーだが、これが強烈な一本気の辛さ。食べた後から、ガツンと口腔にやって来て、思わず口をふはふはしてしまう。ムルギランチがレンジの広い奥行きの豊かな辛さだとすれば、こちらはツンと一方向へ抜ける辛さ。どちらも甲乙つけがたい。しばらくはこのダブルカレー体制を楽しもうと思う。

 ところでご存知の方も多いと思うけど、このナイルという店。創業者のA.M.ナイル氏は知る人ぞ知るインド独立運動家で、京都帝国大学に留学していたときに日本陸軍と接触し、日本にすでに亡命していたボースを通じて頭山満や大川周明らとも出会っている。太平洋戦争時にはインド独立運動に尽力し、終戦後には東京裁判のため来日したパール判事の日本調査に協力したり、日印平和条約の非公式顧問に任命されたりと、日印親善に大きく貢献した人物である。1949年に銀座に日本初の本格インド料理店「ナイルレストラン」を開業。1984年には、独立運動の功績が認められなんと天皇陛下より勲三等瑞宝章を授与されている。

th_写真[10]

 現在は二代目のG.M.ナイルさんが店を引き継いでいるが、一階の壁面にはナイルのオリジナルカレーと一緒に、この偉大なお父上の回想録が並べられている。ずーっと気になっていたのだが、いつも店が忙しそうだったのでついついそのままになっていた。この日は、3時もまわっていたので、ナイルさんにあの本ほしいとケースから出してもらった。お父上の回顧録『知られざるインド独立闘争』とG.M.ナイルさんの『銀座ナイルレストラン物語』。その日のうちに読んだ『銀座ナイルレストラン物語』には、なぜずーっとムルギランチにこだわっているのか。そして、なぜナイルレストランが銀座という地で長年人気レストランとして繁盛しているのか。そのへんの秘密がしっかりと明かされていた。

 変わっていいもの。変わってはいけないもの。レストランのメニューひとつ取ってみても、変わらないものがいかに大事かをこの本は教えてくれる。

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この二冊は「ナイルレストラン」でも購入可能。