千夜千食

第66夜   2014年4月吉日

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「バル・デ・オジャリア」

おじやがスペイン語から来ているとは
そりゃあまったく知らなんだ。
まだまだ、世界は広いわと闘志がふつふつ。

 東京に住む大学時代の友人と久しぶりに食事することになった。こういうとき、どこへ行く?あそこはどう?とあれこれやりとりするのはすこぶる楽しいダンドリだ。で、スパニッシュ、それもバルということに落ち着いた。私が銀座にいるので、銀座近辺の店を指定してくれた。銀座コリドー街。その店は、ちょっと妖しい感じで発光している。内装が赤を基調にしているので、そう見えるのである。

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 ほどなく友人登場。ビール党の彼女もせっかくだからとワインをつきあってくれる。ここのシェリーの品揃えはなかなかの充実である。女ふたり誰はばかることなく、食べたいものをじゃんじゃん注文していく。イベリコ豚のハムをのっけた小さなバゲット。おすすめタパスの盛り合わせ。甘エビ、マッシュルーム、ドライトマトのアヒージョ。半熟フライドエッグにフライドポテト、チョリソーを細かく砕いてミックスしているスペイン風スクランブルエッグ。豚バラ肉の煮込み。昔話に花を咲かせながらふたりでうはうは食べながら、そろそろシメをどうするかの相談。こちらの真打ちはオジャなのだそうだ。すると彼女が突然「おじやの語源って、ここから来てるのよ」と言う。ええ〜そうなんや。それは知らなんだ。

 そういえばこちらの店名は「バル・デ・オジャリア」。店のホームページには〜「オジャOlla」とは、古くは「ドン・キホーテ」(1605年)にも登場する煮込み料理のことで、日本の「おじや」の原型に当たります。「オジャリア」はそんな「オジャOlla」を食べさせる場所という意味の造語です〜と書かれている。

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 もともと「オジャ」とはスペイン語で蓋付きの鍋のこと。転じてその鍋でつくる煮込み料理のことも指すようになったらしい。実際、こちらのお店で「オジャ」を注文するとどっしりしたフォルムの「オジャ鍋」に入ってサーブされ、もうそれだけで異国情緒満点、ラ・マンチャを旅しているような気分にしてくれる。

 「おじや」が本当に「オジャ」から来ているかどうかはよくわからない。カルメラ、カステラ、天ぷら、コンペイトウなどポルトガル語由来の日本語は有名であるが、お隣のスペイン語由来というのはほとんど聞いたことがない。

 ネットの語源由来辞典によれば、〜おじや語源には、「深鍋」や「煮込み料理」を意味するスペイン語「Olla(オジャ)」に由来するといった俗説がある。オジャという煮込み料理がおじやと似ており、発音も近いことから生まれた説で、元は女房詞であった詞がスペイン語に由来するはずがない。「お」は接頭語で、「じゃ」は煮えるときの音や様子を表した「ジャジャ」と考えられる。現代では擬音語・擬態語で「ジャジャ」といった表現はされないが、近世には「ジャジャ煮る」といった例が見られることから、上記の説で間違いないだろう〜とある。『語源由来辞典より一部抜粋』

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 こういった俗説も含めてああだこうだと「オジャ」を食べながら会話するのが楽しいのであって、私たちはたっぷり魚介とお米のメロッソというのを注文した。メロッソというのはリゾット風。ゆるめのパエリヤを想像していただくとわかりやすいかもしれない。ジャジャと煮込まれたそれは、香ばしいスパイスの香りと海老やムール貝のエキスをたっぷり感じるとてもやさしい味であった。