千夜千食

第65夜   2014年4月吉日

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歌舞伎座の「めでたい焼き」

いつも幕間は長蛇の列なのである。
旧歌舞伎座時代からおなじみのたい焼きは
ここでしか買えないというプレミアム性で大人気。

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 旧歌舞伎座でできたてのほかほかスイーツといえば、私は断然人形焼だった。ちゃんと職人のおじさんのブースがあって、いつでもあつあつのを食べられた。一階西側の奥には、まるで浅草仲見世のように猥雑で人いきれのする売店コーナーがあって、ちょっとした歌舞伎テーマパークの様相を呈していた。歌舞伎の楽しみに「か・べ・す」というのがある。菓子・弁当・鮨の頭文字を取ってこう言われる。つまり先頭の菓子は昔から歌舞伎観劇にはなくてはならない庶民の楽しみなのである。

 この旧歌舞伎座の三階にひっそりとあったのが、「めでたい焼き」である。昔は一階に喫煙所があったので、三階にはほとんど行ったことがなく、別にたい焼き以外にも一階に人形焼やら最中やら、スイーツはたくさんあった。

 ところが、歌舞伎座が新しくなり、喫煙所は三階だけになってしまった。煙草が吸いたくなるとしかたなく三階まで上がるのだが、その喫煙ブースの入り口にこの「めでたい焼き」は売られている。懐かしく、幕間にひとつ買って食べた。少し大きめのたい焼きの中に、白と赤のお餅が入っているのでそれが目出度いということで、「めでたい焼き」というネーミングがついている。お値段は250円とちょっぴり高め。ま、外で150円で買えるペットボトルのお茶だって中では250円なんだから、当然といえば当然か。それにじゅうぶん250円の値打ちのあるおいしさである。

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 歌舞伎座の杮落し公演が始まってすぐぐらいはまだ、一階から三階までエスカレータで移動してもそんなに並ばずにこのたい焼きは買えた。ところが、あっという間に人気となって、行列に並ぶのにどんなに走っても三階席の人にはかなわない。目の前であえなく、売り切れという事態を何度か経験すると、こちらも少し意地になる。何としてでもこのたい焼きをゲットしなくてはという気持ちになるのは、私の性格を考えてみても当然のことであった。

 そして、ひねり出した策はというと。

 私はちょいちょい演目(舞踊のときが多い、すみません)によっては、松屋に買い物に行ったり、ナイルでゆっくりしたり、三原橋角っこにあるプロントの二階の喫煙コーナーでへらへらしたりすることがある。それで歌舞伎座に帰ってくるとたいていまだ上演中である。なので、誰も並んでいない売店に行き(たいていはお兄さんは休憩している)、次の幕間にピックアップするからとテイクアウトを予約しておくのである。テイクアウトたい焼きは箱に入れてくれるので、5個か10個。これはお土産にするのだが、そのとき箱入りとは別に幕間で食べる用を1個別に言っておくのだ。

 ふふふ。これを次の幕間のときに、悠々と取りに行き、おやつとして食べる。実にめでたい。