千夜千食

第75夜   2014年5月吉日

  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px

ご存知「焼きそばUFO」

深夜に悪魔の声がする・・・
「ユーフォー」いや、これはピンクレディではない。
コンビニの棚から誘惑の囁きが聞こえるのである・・・

 鮨旅行を満喫して、家に帰り着いたのが午後11時過ぎ。昼、夜と、天ぷら&鮨を食べているのに、深夜が近づくと小腹が空いている。ちょっと近所のコンビニでお茶を買うだけのつもりでいたが・・・・

 年3〜4回、私は無性に「焼きそばUFO」が食べたくなる。それも適度に酔っ払っている深夜の魔の時間帯。いろいろ新商品は並んでいるのに、ヤツはちゃんといちばん目につく棚に鎮座しているのである。いかん、いかん、と思う。思いながらも、手がUFOへとすでにアフォーダンスしている。

th_写真th_写真[1]th_写真[2]

 会計を済ますと一目散に家に戻り、すぐさま湯を沸かす。バリバリと外側のビニールを剥ぎ、トップのシールを半分はがすと、そこへ生卵を一個割り入れ、常備している成城石井の自家製ポークウインナーを2、3本入れ、湧いたお湯を注ぐのである。3分経っても卵は半熟のまだ手前。そこへ付属のソースを入れ、麺になじませているうちに卵が麺にからんでいく。ふっふ、これ、たまりませんな。

 高校3年間、そして大学も入れると7年間を寄宿舎で暮らしてきた。ちゃんと3食完備していた環境ではあったが、なにしろ若い。深夜になるとおなかが空いて空いてたまらない。そこで食べるのが、「焼きそばUFO」をはじめとするインスタントラーメン系だった。いちばんよく食べたのは明星食品の「ちびろく」である。小さなインスタントラーメンが6個セットになっていて、これをマグカップに1個入れお湯を注いでラップをかけると、ちょうどよいミニラーメンになるのである。あの頃、寄宿舎のどの部屋にも常備されていたヘビロテアイテムだったはずだ。せんだみつおが出ていた軽薄なコマーシャルも懐かしい。

 そこへいくと「焼きそばUFO」は別格だった。ラーメンではなく、焼きそばがお湯だけで作れるのである。あの当時オタフクが作っていたというソースの味は、その頃流行り始めたマクドナルドやケンタッキーフライドチキンよりもっと強烈に若い味覚中枢を刺激したのである。以来、その味は大脳皮質味覚野の深いところに確実にインプットされ、年に数回、その味への熱望がまるでプログラムされているかのようにある頻度を持って出現するのである。さんざん鮨三昧などしたこの日も、久しぶりに発作が出た。

 いっとき、「ペヤング」も美味しいという人がいて、酔狂なことに「焼きそばUFO」と同時に食べ比べたことがある。さすがに、「ペヤング」もなかなかのものだった。だが、「ペヤング」は昔は関東でしか売っていなかったのである。大脳皮質に味の記憶がないのである。これはどうしても、やっぱり、「焼きそばUFO」に軍配が上がろう。甲乙つけがたい焼きそばも、すでにインプリンティングされている味にはどうしたってかなわないのである。