千夜千食

第86夜   2014年6月吉日

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「果林」の残業弁当

普段どんなものを食べているのか公開しよう。
近所の喫茶店で作ってもらう栄養バランス満点のお弁当。
残業する日々の、これぞ生命線なのである。

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 今日も残業、明日も残業。残業は我々の業界ではあたりまえ。就職して以来、長年ずーっと残業食を食べて来た。たいていは、定食屋さんとかお蕎麦屋さんとかお好み焼き屋さんとか。どうしても丼ものとか揚げものが多く偏っていて、とてもじゃないが健康的とはいえなかった。が、選択肢もないので、長年そうせざるを得なかった。仕事のパートナーと独立してからは、天神橋商店街のお世話になってきた。忙しい平日の夜はしかたがない。これはもう宿命のようなものなので、普段はほとんどあきらめてきたのである。

 ある日、ランチをよく食べに行っていた近所の喫茶店の味が、いつもヘルシーで美味しいので、夜のお弁当を作ってもらえないだろうかと頼んでみた。契約成立。残業弁当なるものをママに作ってもらえることとなったのである。さすがに毎日だと飽きるのと気分転換も兼ねて水曜だけはなし。週のうち4日間は弁当を作ってもらえることになった。リクエストは、できるだけバランスよく、野菜も多め。お味噌汁もついている。毎日、3時ぐらいまでに弁当がいらないときだけ弁当係に報告する。特別に何も言わないでいると、夜6時になると自動的にお弁当がやってくる。ママの店は会社から50メートルくらいのところにあるので、毎晩お弁当を取りに行くのは新入社員の仕事である。

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 どうです。なかなか壮観でしょ。揚げ物、焼き物、煮物、酢の物、和え物とレパートリーは多彩、素材も肉や魚、野菜、季節になると若竹煮とか松茸ごはんなんてときもある。会食や打ち合わせ、友人と食事するとき、無性に何かを食べに行きたくなるとき以外は、たいてい会社でこの弁当を食べている。社員みんな基本的には健康でいられるのは、このお弁当のおかげかもしれないと思う。ママは京都山科出身なので、どれも基本は薄味。若い社員の中には、ぬただとか白和えを食べたことのないものもいて、かえってそういうおばんざい的なものを新鮮に感じているらしい。

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 日々、どういうものを食べるか。これは生活のクオリティに関わる問題だと思う。できれば、作っている人の顔がしっかり見えて、素材や調理法も信頼できる。心をこめて丁寧につくられたものを、きちんといただく。これがいちばん大事なことである。そういった意味では鮨も、カウンター割烹も、ママの作ってくれるお弁当も、同じである。ところが、最近の新人約一名は、このお弁当が嫌だといって食べない。私がいつも残すなとうるさいのもあるのだろうが、毎晩コンビニでインスタント麺やサラダを買ってきて食べている。我々世代にはコンビニ食なんぞ、あくまで非常食であって主食になどしたくもないが、若い世代にとってはしっかりつくった手作り弁当よりコンビニ弁当の方がいいとは、なんとも切ない話である。社員の健康のことも考え頼み始めた弁当ではあるが、時代は変わりつつあるのだろうか。ま、食べたくなきゃ、好きにすればいいけれど。強制はしていない。