風間商店の「カステラ」
頑なに昔ながらを貫いている「へんこ」の匂いがする。
煙草、カステラ、どら焼き、赤飯・・・・・
こういう店が白金に残っているのがとてもいい。
この店は煙草を売っている。夜に何度か買ったことがある。看板自体が強烈な下町感を漂わせており、大きく<手づくりの和菓子 自家製のカステラ>と書いてある。そうとう年季が入っている。昔の下町にあったような風情なのだが、中はわやくちゃである。写真からもわかるように、ダンボールがところ狭しと積み上げられてい、肝心のお菓子が入った陳列ケースは外からは見えない。
中に入り陳列ケースを覗いてみると、どら焼き、カステラだけでなく赤飯も売っている。どれも、実直に作っている感を漂わせており、たしか試しにどら焼きを買ったことを覚えている。シンプルな美味しさだった。しかし、煙草と和菓子ねえ・・・なかなかファンキーな昔ながらの商店である。
向かいのビストロ「アトリエ・ド・アイ」で、この店の話題になった。ご主人がコワいので興味はあるが誰も行ったことのない店なのだという。別に誰でも入れるけどと返すと、いっときテレビで取り上げられたとかで、人が集中した時期があって「へんこ」なご主人に売ってもらえなかった人がたくさんいると言うのである。これは、まあ一種の都市伝説的な流言であろう。だけど、そういうのを聞くと、まさかそんなと思うのと同時に、私にはよもや売らんとは言わんやろうなとむくむくと根拠の無い自信のようなものが頭をもたげてくるのである。「やめといたほうがいいですよ」との助言を無視し、早速、「アトリエ・ド・アイ」で勘定を済ませた後、迷わず店に入った。
深夜に近い時間だったので、一切れずつ個装したカステラしか残っていなかった。「ホールはないの?」「ないよ、あるだけ」と言われたので、5切れほど買った。少々ぶっきらぼうではあるけれど、別に普通の対応である。ほらね。噂というもの、だいたいこんなもん。売ってるのに、売らないなんてありえない。翌日家に持ち帰り、珈琲と共にいただいた。卵のほのかな風味が香るやさしい味がした。
この店は白金北里通り商店会というのに属している。昔からある豆腐店や青果店だけでなく、今も残るレトロな建物をうまく改装したバーやレストランなども参加し吸引力のある通りになっている。すぐ近くにはプラチナ通りがある。あちらはスノッブさがウリであろうが、こちらは親しみやすい庶民感覚。新旧がうまくミックスされた土地は、人を惹きつける魅力にあふれている。私のお気に入りの蕎麦も鮨も、深夜御用達マッサージも、ときどき行くバーも、全部この通りにある。