千夜千食

第101夜   2014年6月吉日

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銀座鮨「一柳」

移転してから一周年を迎える。
「 継続・持続・存続 」
その意味を考えさせられる店である。

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 こちらは、ホテル西洋銀座撤退のあおりで、移転を余儀なくされたのであるが、明日でちょうど新装開店一周年となる。ホテルの中から路面店へ。「真魚」から「一柳」へ。前の店でも休みはお盆明けや連休明けとか数えるほどしかなかったが、大将の一柳さんは店をオープンするにあたり、ひとつ決め事をした。

 一年間、一日も休まず昼も夜も握り続けること。

 365日フル稼働である。もちろん、従業員には交代で休みをとらせたというが、本人は本当に一日も休まずカウンターに立ち続けた。健康でなければ務まらない。その日の天気や海の状態によってネタは変わる。毎日築地に仕入れに行き、その差異を自分の目と舌で見定め、下ごしらえするだけでも大変なことである。日々が真剣勝負である。風邪なんてひいてはいられない。気合と根性も必要だろう。いつも同じ肉体と精神のコンディションを保つことの難しさを、彼は軽々と超え、あくまでも軽妙である。たまに、羽目を外したい日もあっただろう。ゆっくり朝寝したい日もあったに違いない。元高校球児で、出身高校は甲子園の常連校である。ピッチャーだったと聞いた。その経験は、たぶん今に活かされているだろうと想像する。試合でよいピッチングをするためには、それまでの調整というものが大事だと聞く。肩の筋肉やインナーマッスルを鍛えるように、ネタを見極める。シャドウピッチングの要領で、日々下ごしらえをする。そうして、店のオープンと共にカウンターに立つ。

 正直、心配していた。身体が持つだろうか。風邪とかひかないだろうか。だけど、それは杞憂に終わった。本当に彼は、365日昼夜、通算730回登板して、完投したのである。

 「もう、ここまで来たら、店によってそんなにネタとかって変わらないと思うんですよ。となれば、あとはいかに技術を磨いていくかと、握る人間の気合いとか根性だけじゃないですか」その言葉に、自分自身を振り返る。頭が下がる。一度決めたことを継続する。精神状態もつねに一定に持続させる。そうしたものだけが、存続できるということなのだろう。彼の姿勢に学ぶものは、実にたくさんある。

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 一周年のツマミは、じゅるっと飲み干すじゅんさい。コリコリの真子鰈。舞鶴の牡蠣。勝浦のカツオ。特製あん肝。たこのやわらか煮。桑名の焼き蛤。余市の馬糞雲丹と紫雲丹。千葉白浜のアワビ。毛蟹。全10品。握りは、真子鰈。縞鯵。いさき。ヅケ、中トロ、大トロのマグロ三連発。アオリイカ。コハダ。アジ。キスの昆布締め。函館の紫雲丹。車海老。穴子。トロたく。

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 あいかわらずツマミは充実しているし、握りの連打も申し分がない。この先、どんなふうになっていくのか、大将からも鮨からも目が離せない店である。

 夏休みには、大峰山に修行に行くらしい。