千夜千食

第125夜   2014年9月吉日

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六甲道「アムアムホウ」

点心の旨さには唸らされるし、四川系も卓越してる。
何年たってもレベルが落ちない、アメイジングな中華。
こういうのが六甲にあるというのがうれしいではないか。

 オープンしたときから、六甲ではちょっとした評判であった。「あそこは旨い」「四川系のピリ辛が最高」「特製XO醤が馬鹿馬」「香港系デザートも捨てがたい」エトセトラ。元々は香港系点心で人気が出て、裏メニューで出していた四川系も評判となり、メニュー化されたと聞く。実際何度か行って、その味のレベルにも、メニューの多彩さにもまいってしまった。店があるのは三宮とか梅田とかのマチナカではない。六甲道ローカルの駅近く。席数も少ないので、当日の予約を取るのはほとんど無理と言っていい。早めに予定を立てないと行けない店なのである。で、しばらく足が遠のいていた。

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 久しぶりである。何年かぶりである。店のインテリアも雰囲気も何も変わらない。メニューにはおすすめ料理と辛さの段階が丁寧に書かれている。昔からこんなメニューだったっけ。だけど、おすすめが親切に明示されているのは非常によろしい。名物よだれ鶏の旨辛ソースをまずは注文。四川省瀘州(ろしゅう)名物の蒸鶏であるらしい。これを食べなきゃアムアムホウは始まらないし、これを初めて食べるとその味にきっとノックアウトされることだろう。秘密はやはり、旨辛ソースか。おすすめだけあって、ちゃんと瓶に入れられ持ち帰れるように販売もしている。察するところ、XO醤を軸に胡麻、花椒、山椒くらいが入っているのは何となくわかる。しかし、何だろう一体全体この味は。旨味と辛味と深味と滋味とが渾然一体のカオスとなって、舌を複雑に痺れさせ脳幹をエロティックに刺激するのである。骨抜きになるとはこの感覚であろう。よだれ鶏もしっとり柔らかい。ふうう。

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 くらげの和えものはタスマニア産粒マスタード風味。しかし、これはよだれ鶏より先に食べるべきであった。連れは、旨いと言ってくらげにもよだれ鶏の旨辛ソースをつけて食べる始末。店側もそこんところをちゃんとわかっていて、よだれ鶏の皿を下げたあと、ソースを最後の最後まで味わい尽くせるよう別のお皿に入れて持ってきてくれるのである。そうこうしていると、上海蟹入りフカヒレスープがやってくる。蟹の味噌がちょこっと入っているだけで、スープのコクがまるっきり違う。そして、海鮮と季節野菜の塩味炒め。これは典型的な広東系。ストレートに美味しい。酢豚は酢豚だが、なんとイベリコ豚の干しいちじく入りである。ほのかな甘みに心地よい酸っぱさが加わり、またしても味覚がカオスの淵に立つ。小籠包は黒トリュフ入り。これがまたなんとも言えないよい香り。地鶏と揚げ豆腐の土鍋煮は中国アンチョビ風味。餡のなかにくったりじんわりまったり浸かっている鶏と揚げ豆腐の肢体のセクシーなこと。これもこたえらない味なのだ。シメはおこげの海鮮あんかけ。このゴージャスな海鮮を見よ。徹頭徹尾、馬鹿馬の連打である。デザートは、香港竜沙包(ラウサーパオ)という、中にとろとろの卵バター餡の入ったおまんじゅう。これもこちらの名物である。

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 香港飲茶系、四川系、広東系。各地の中国料理のいいところだけをうまい具合にピックアップして、日本だからこそ調達できる贅沢な食材に現地の香辛料などを組み合わせたアムアムホウならではの方法。こんなにエッジの効いた編集ができる料理人が六甲にいるというだけで、妙に嬉しくなってくる。意外に知られていないが、六甲界隈はチャイニーズの激戦区。だけど今のところ、私にとっては、ここがダントツである。