千夜千食

第126夜   2014年9月吉日

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山代温泉「蕎麦処上杉」

素麺のように見えるけど、これ、れっきとしたお蕎麦。
真っ白なその姿、その名も「御前そば」と言うのだそうだ。
こんなお蕎麦ははじめていただいた。雑味がなく美味しい。

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 蕎麦といえば茶色っぽい蕎麦色というイメージがあるのだが、蕎麦の実の中心部分だけを使うと真っ白になるのだそうだ。それを教えてもらったのが、ここ蕎麦処「上杉」である。その純白の蕎麦を「御前そば」と言う。

 蕎麦の実を断面にしてみると、中心はもろくて白い部分、そのまわりに固く茶色い部分、甘皮、そして外側に蕎麦殻がある。蕎麦の実を挽くとき、通常は製粉能力の高い臼で挽くわけだが、これを弱めて挽くと中心のもろくて白い部分だけを粉にすることができ、これが一番粉と呼ばれる白い蕎麦粉である。「御前そば」はこの粉だけを使う。蕎麦の名称については、地方によっても、店によっても微妙に違いがあり、いちがいにこれだとは言えないのであるが、東京の更科系有名店によると御前そばと更科そばが同義であったり、更科のなかでも厳選された御前粉だけを使うものを御前そばと呼んだり、実にまちまちなんである。

 蕎麦粉専門のメーカーのホームページをのぞいてみると、蕎麦粉の種類の多さに驚いてしまう。挽きぐるみ、二八蕎麦粉、超粗挽き粉、石臼挽き、韃靼そば粉、アメリカ産玄蕎麦、御前粉・・・エトセトラ。御前粉は御前という名前がついているくらいだから、元々は「御前」と呼ばれるような身分の高い人に献上するためのスペシャル蕎麦だったのではと類推される。黒黒とした太い蕎麦のことを田舎蕎麦と言う。それはそれで風味豊かで旨いのだが、さすがに貴人には田舎蕎麦は出せない。せめて、できるだけ白く精製した一番粉でつくる蕎麦でもてなすというのが、当時の礼儀であったことは想像に難くない。

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 おすすめの「ふたみそば」というのにした。おろし蕎麦も食べたい、とろろ蕎麦も食べたい。天ぷらも食べたい。そんな人向けに、二つの味を少しずつ。で、「二味(ふたみ)」蕎麦というのである。おろし蕎麦は少し色のついた玄そば、こちらはワイルドな蕎麦の風味を感じさせながらも、端正な仕上がりで文句なしに旨い。御前そばにはとろろがかかっている。初めて食べた御前そばの味は、雑味がなくすっきり爽やか。つなぎには地元の葛を使っているらしく、独特のコシがある。どちらの蕎麦も、なかなかのレベルである。うどん県出身なので、蕎麦の味を云々するほど食べてはいないし、これだという基準も自分の中にはない。あくまで、自分の舌がおいしいと感じ、また食べたいと思うかどうかだけである。で、「また食べたい」と思った。

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 こちらでは、つゆは北海道利尻の昆布に上質なかつお節、秘伝のかえし醤油で仕上げているのだそうだ。塩は能登地方で伝統的な製法で作られる天然塩、天ぷらの一部は店主自らが採りに行く季節の山菜。お茶やそば湯に使う水は地元の山奥で湧き出る天然水。こだわりの蕎麦屋であることは間違いない。

 山代温泉に来るときは、また寄りたいと思う。