NY「CAFE SABARSKY」
こんなシブい美術館があるのも、
イケてるカフェがあるのも知らなんだ。
美味かつリッチなオーストリアン。
オーストリア料理というのにほとんどなじみがない。ウインナ風カツレツとかザッハトルテくらいしか食べたことはない。
NY訪問歴もけっこう長いのに、ここを知らなかったのは迂闊としかいいようがない。ノイエギャラリー。グッゲンハイムから歩いて2ブロックのところにある20世紀はじめのドイツとオーストリアの美術品を集めた邸宅美術館である。クリムトの金の時代の代表作「アデーレ・ブロッホバウアー」やエゴン・シーレの作品コレクションで知られているという。知らなかった。
カフェ・サバスキーはそのノイエギャラリーの中にある。ランチの予約は取らないので、列に並んで順番を待つ。時刻はちょうど昼過ぎ。だが、そんなに待たずにテーブルに案内された。どのテーブルにも、見慣れぬ美味しそうな皿があり、お腹がぐーっと鳴る。メニューはドイツ語(?)と英語の両方で書いてあるので、なんとなくは想像できる。あれこれ悩んで、周りのテーブルも盗み見しつつ、まずはスパイシーエッグのサンドイッチ。カンパーニュ風の田舎パンの上に、スパイスで和えた卵がみっしり乗っている。ピクルスの上にゆで卵、さらにパプリカパウダーがかけられておりかなり美味である。メインにはハンガリアン・ビーフ・グヤーシュというシチューを注文した。これは予想通りの味で、牛のすね肉がごろごろ煮込まれてい、田舎料理の体をなしてはいるがなかなかじんわり旨いのである。この皿にはシュペッツレというパスタのようなものがついてくる。卵麺の一種らしいのだが、イタリアンパスタをイメージすると見事に裏切られる。ひと口食べると歯応えも何もなくゆるい食感で拍子抜けするのだが、食べ続けているとそのふにゃり具合が妙に心地よく、ハーブをからめた味付けもよく、これはこれで味わい深いと思えてくるのだ。
シュペッツレについて調べてみた。卵、小麦粉、塩をこね、ゆるい生地の状態で茹でるのだという。ドイツ、オーストリア、アルザス、南チロルなど広い地域で、ソースやグレービーをたっぷり使った肉料理に添えられることが多いのだそうだ。そういう意味ではクスクスなどにも使い方は似ている。シンプルなものだから、塩味だけでなく、フルーツと混ぜたり甘みをつけデザートにすることもあるようだ。乾麺のシュペッツレもあるようだが、こちらは生に比べるとやや固めであるらしい。
日本でも小麦粉を使う麺はうどんだけではない。私なんぞ、うどん県の生まれと育ちなので、コシのない麺など食べたくはないがコシを求めない麺というのも日本にはいろいろあるようだ。大昔九州大分で「やせうま」という麺を食べたことがある。うどんの5〜6倍もの太さの平たい麺にきなこと砂糖がまぶしてありおやつの一種なのだが、あれを味噌仕立てにすると「だんご汁」になる。山梨の「ほうとう」も食べたことはないが、こちらもほとんど捏ねないので、食感は柔らかいらしい。「すいとん」なども同じような食感だろう。「伊勢うどん」にいたっては太麺を一時間近く煮込んで、あのふにゃふにゃの食感にするらしい。どれも昔からその土地の人に親しまれ残っている麺であるから、それはそれで地域の人にとっては愛すべき食感なのだろう。(私がうどんのコシを愛するように)
シュペッツレの食感があまりに面白かったので、つい、いろいろ連想してしまった。
カフェ・サバスキー。来年も行こう。