千夜千食

第143夜   2014年11月吉日

  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px
  • icon_14px

渋谷「ドンチッチョ」

なんだか、シチリアに無性に行きたくなってくる。
カジキの炭火焼きとかイワシやヤリイカの魚介類パスタ。
それにね、デザートのカンノーリがまた絶品なの。

th_IMG_1309

 Leave the gun. Take the cannoli.

 映画「ゴッドファーザー」でクレメンザが言う台詞である。何?カンノーリって・・・。どうやらマフィアの強面オヤジにとって、欠かせないシチリア菓子であるらしいのだ。だけど、正体がわからない。70年代は、海外旅行にそんなに気軽に行ける時代ではなかったから、海外の文化や生活習慣を知ろうと思うと本や映画に頼るしかなかったのである。その頃、まだシチリア料理店なんてものは関西にはなかったから、それがマフィア映画であろうとも「ゴッドファーザー」はある意味よい教科書だった。

 件のカンノーリに出会ったのはそれから10年後ぐらいである。ニューヨークに行き始め、リトルイタリーのレストランで初めて口にしたカンノーリ。やたら大きくて、甘くて、どちらかといえば相当くどい味だった記憶がある。「ふーん、マフィアのオヤジでも、こんな甘いものが好きなんだ」と驚いたこともよく憶えている。ベタベタのイタリアンというか、シチリアンというか。まだイタリア料理が今ほど洗練されていなかった頃の話である。

 その後、イタリア料理はメジャーになり、リトルイタリーに行かなくても美味しい店がどんどん増える。やがてティラミスブームがやって来て、イタリアンデザートは一気にポピュラーになり、ソーホーのカフェでも食べられるようになった。もうどこの店だったかは忘れたけれど、最後に食べたカンノーリはなかなか美味で、忘れがたい味だった。

th_IMG_1323

 そしてここドンチッチョで何十年かぶりに出会ったカンノーリ。パリパリの皮の中に、リコッタチーズクリームがたっぷり入ってい、思わず「旨い!」と心のなかで叫んだ。シェフの石川さんとは、夜遊びの不思議なご縁で何度かお会いしており、シチリア料理というのにも興味があったので、行ってみたのである。

 店があるのは渋谷。といってもガチャガチャしたお子様サイドではなく、青山学院のすぐ近く。どちらかと言うと南青山に近いエリアで、店内も昔ながらのイタリアンという感じでありながら、適度にざわめきがあり、大人になった今としては実にくつろげるインテリアと雰囲気である。

th_IMG_1310th_IMG_1313th_IMG_1314th_IMG_1316th_IMG_1318th_IMG_1321

 スプマンテをボトルでいただいて、まずは前菜を。ツブ貝と赤玉ねぎ、ズッキーニなどが入ったサラダにブラッドオレンジソースがかかってる。メリハリのある好きな味。二品め、これメニュー名を失念してしまったのが残念。とても美味しかったことだけは憶えているのだけれど・・・(写真でご想像ください)。パスタはワタリ蟹とトマトのスパゲティ。こちらもシンプルなんだけど、一本気な感じでガツンと脳天を刺激する旨さ。メインはメカジキマグロのパレルモ風炭火焼き。文句なしに美味しいと思う。こういうのが、シチリアの郷土料理というわけか。本来の素材を大事に活かしているのがよくわかる味。で、気取ってなくって、大らかで、カジュアルなんだけどデリシャスな感じ。何より、サーブしてくれる人も、調理する人も、お店全体がまるでここはシチリアか?というくらいライブな空気で満ちている。

 聞けば、この店日本のシチリア料理の草分け的存在なのだそうだ。日本のイタリアンの名店で修行を積んだ後、シチリアを中心にイタリアでさらに修行。帰国後何店かのシェフを務めて、2000年に独立し、この店は二軒目にあたるのだそうだ。

th_IMG_1325th_IMG_1326th_IMG_1328

 デザートは連れがリンゴのタルト、ジェラート添え。私はレモンのプリン。その後店の外側にあるテラスへ移動して、カンノーリとリモンチェッロをいただいた。気分は完全にシチリア〜ン。かの島を訪れてみたくなったし、ここへもまたカンノーリを食べに何度でも来たい。あ。もちろん料理も全メニュー制覇したいわ。また、通いたい店が増えた。