千夜千食

第175夜   2015年1月吉日

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ひがし茶屋街「みつ川」

金沢の夜とセットになっているので
年に一度はここの鮨を食べる。
今回ついに冬のフルバージョンを堪能することができた。

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 土日を利用してのハイパー企業塾の合宿も終了。せっかくの金沢、前乗りは当然であるが、次の日も祝日なので終わってからも居続ける。いわゆる後帰りというやつである。ハイパー塾の幹事でここ3期をご一緒している岡島さんと、一緒に泊まって食事に行く約束をしている。夜の金沢で食事といえば当然鮨である。「みつ川」は日曜もやっている頼もしい鮨屋なのである。

 ハイパー終了後、何人かで別れを惜しみ、居酒屋で香箱がになどをツマミに、軽くは飲んでいる。ご一緒したOさんがこの後私たちが鮨に行くという話を聞きつけ、ぜひとも合流したいという。ううむ。この手の店で当日の席を確保するのは難しかろう。だけどせっかくのことだし聞くだけは聞いてみよう。

 予約は7時である。急遽1名なんとかならんかのリクエストに、7時から8時までの1時間だけならなんとかしましょうということになり、1時間だけでもご一緒することになった。ここは席数も少ないし、今やすっかり金沢を代表する鮨なので、カウンターは時間刻みでフル稼働のようである。当日受けてくれただけでも感謝すべきであろう。よかった、よかった。

 さて、昨年の5月以来(第71夜)であるから、8ヶ月ぶりである。

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 初っ端からタラの白子でが出てくる。うふふ。今やどこに行っても出回っている白子であるが、真冬の金沢でいただくものは鮮度と質がまったく違う。舌の上でとろりと婉然と溶けるのだ。その、ただただ至福の味わいに目を細める、唸る、感嘆する。お造り三種盛りは、平目、ヤリイカ、鯖。どれも素晴らしい活かり具合である。

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渋い唐津の皿に盛られているのは、コリコリしたカワハギに肝をまぶし、さらに葱を加えた極上の一品。黒龍が進むったらありゃしない。そして、当然のごとくノドグロの焼いたものが出てくる。これはもう冬の北陸では欠かせない定番であろう。お次は、北陸の至宝加能ガニと味噌である。うふふ。オンシーズンに来ただけのことはある。ズワイガニって、どうしてこんなに旨いんだろね。端正なのに、複雑かつ深い海の滋味。カニだけを丸ごと食べるのももちろん好きだけど、こうして美味しいところを少しずつ楽しむというのが、大人ならではの美食と言えるのかもしれない。続いて、下足をこのわたで和えた一品。このわたで和えるかな、普通。そうとう贅沢な大将の遊び心である。イクラは大根おろしとすっきりと。これでノドグロやカニの興奮を鎮めたと思ったら、カワハギにたっぷりの肝。ふひょひょひょひょ、だね。いけませんね。すでに黒龍の二合目が終わろうかという按排。そうこうしていると、ついに、ついに、フグの白子が出た。好物を三つあげよと言われると、一にアンコウの肝、二にフグの白子、三に雲丹というくらいのランクであるので、こうれはもう黙ってただただ熱いうちにいただく。香ばしさも完璧な一品。

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 いつもツマミを食べながら、もう少しゆっくり、じっくり味わいながらと思うのに、結局バクバクあっという間に食べてしまう。これをもっと大人の余裕で楽しめるようになることが目下の目標なのだが、まだ修行が足りないのかなかなかそれができない。と言いながら、握りに突入する。まず平目。ほどよくコリッとし、端然たる味わい。イカはいつものように大葉をはさみ三枚におろしたものをさらに細かく刻んでいる。これにより口の中ですぐさまふわりとイカの旨味が広がるのである。弥助にインスパイアされた技が訪れるたびにどんどん洗練されていっている。炙った鰆は、香ばしさと上品さが絶妙なバランスを保っている。甘エビのぷりぷり具合とねっとり濃厚な味わいも、格別。そして、寒ブリ。ああ、冬に来てよかったとしみじみ思うデリシャスさ。身はゴリゴリの筋肉質なのに、そこにサシのような脂肪がバランスよくついていて口の中ですーっと溶けていく。つぶ貝もイキがよい。コリコリ。赤身、アジ、コハダの定番たちも間違いのない味である。そして炙ったのどぐろにいたっては、もう言葉がない。やっぱり冬の脂の乗り方は半端じゃないね。巻物をいただいた後に、パリッとした表面に塩をぱらりと振った穴子、とろとろになった雲丹で〆る。

 いつ来ても、エッジの効いたツマミと握りである。金沢という天然の旨い魚に恵まれた土地と、大将の腕の相乗効果による高次元の鮨イノベーション。ここにしかない鮨という意味では、やはり夜のナンバーワンである。今回の金沢ではずーっと行きたくてやっと念願かなった店(第172夜)もあったが、ここはもはや私にとっては金沢の夜のホームグラウンドのような店である。一泊しかできない場合は、やっぱり迷わずここに来るだろう。