千夜千食

第183夜   2015年1月吉日

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同心「大阪とらふぐの会」

知る人ぞ知るふぐ専門の店が大阪・同心にある。
なんと、我が社から歩いて100メートルのところ。
インターホンを押して入る超怪しい店なのである。

 噂を聞いたことはある。

 大阪に、完全会員制のふぐ専門店のあることを。何でも住所電話ともに非公開で、会員に連れて行ってもらわないと入れないという。ネットで調べてみたら、そこにはこう書かれている。

ご来店に関して

当店は、ふぐ愛好家の集まる隠れ家的店舗になっております。
会員制のため住所・電話番号は公開しておりません。
当店でのお食事につきましては、現会員様(ファミリー)とご一緒にご来店いただくか、もしくは現会員様(ファミリー)よりご紹介いただくことにより、当会の会員様(ファミリー)とさせていただきます。

 噂は本当なのである、ところが蛇の道は蛇とはよく言ったもので、ここの三番目にできたPREMIUMという店、我が社から歩いて100メートルくらいのところにあるのである。我がメインクライアント様の社屋の向かいなのである。しかも。我がクライアント様のお偉いさんたちは、あろうことかここの会員なのである。これを僥倖と言わずして何をか言おう。

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 ある夜の会食。「ふぐは好き?」と問われ、一も二もなく「好きに決まってますよ」と返事を差し上げると、どうも件の「とらふぐの会」に連れてってくれるらしい。シーズンなので、早い時間の予約しか取れなく、スタートは5時半である。会社から這ってでも行ける距離である。何の問題もない。そして約束の時間にその店に向かう。

 マンションである。入り口はオートロックになっている。どこにもそれらしい表記はない。知っている人だけがその部屋番号を押せるのである。ファンキーなシステムである。やがて応答があり、ロックが解除された。エレベータに乗り11階をめざす。ドアが開くと、そこには和風の門構えが出現する。紛れもなくそこはふぐ専門店なのである。

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 個室に通されたが、なんとマンションの高層階の庭に日本庭園があるのである。竹が植えられ、灯籠が鎮座し、灯りが妖しく発光している。全員そろったところで、さっそくのふぐコースである。

 こちらで使っているのは、すべてとらふぐ。体重2〜3キロ前後の大型ふぐがメインであるそうな。うふふ、美味しそう。まずはヒレ酒を注文しなくっちゃ。

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 こちらのヒレ酒は「炎のナイアガラ」と呼ばれる。何故かというと、ヒレ酒がやって来ると部屋の電気を消し、ヒレ酒を豪快にじゃぶじゃぶさせて、さらにそこに日本酒を注ぎながら火をつける。青い炎を滝に見立てているのである。いやあ、大した趣向であるよ。こういうベタさは大阪ならではであろう。ヒレは香ばしく焼かれ、ふぐの出汁もたっぷり出ている。旨いっ。

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 料理は最初に、皮の湯引きが出る。金粉が乗っている。コリコリの食感。美しい緑釉のかかった織部に敷かれているのはてっさ。薄造りの身で葱と辛めの紅葉おろしをくるりんと巻いて食する。ポン酢も徳島のすだちをベースにしているそうで、たいへんに好みの味である。ヒレ酒にはやっぱりてっさだなあと目を細めながら、たちまち平らげる。続いて出されたのは、なんとアレ。こんなの食べて大丈夫なのか?と思いながらも箸が止まらない。意外とあっさり。そしてヒレのスープ。なかなかよい按排の味である。

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 こちらのメインは焼ふぐである。焼き肉のように焼くのである。皿に載ったふぐの身は二種類。遠江という表皮から三枚目の皮と遠江のひとつ内側になる三河という部位を使う。ふぐの部位にこんな乙な名前がついているとは今まで知らなんだ。ふぐには皮が三枚ついているらしい。二番目の皮には身に薄皮がついており身皮と呼ぶそうで、それが転じて三河になったのだという。で、その隣の皮が遠江(とうとうみ)とはなんと洒脱なネーミングであろう。こういう見立ては日本ならではの遊び心であるな。すべての部位を特別なオイルでコーティングしている。直火で焼くと、水分が逃げずぷりりとしたゼラチンたっぷりの旨味が味わえるのだそうだ。それにしても、後が詰まっているからなのか、皿はどんどん運ばれて来る。こちとらの食するペースが早いからいいようなものの、こう矢継ぎ早では息つく暇もない。なので、ヒレ酒をまたしても注文する。しかし、この焼ふぐの味わい、ふぐの概念がかなり変わる。むっちり、もっちり、ぷりり。

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 続いてはおまちかねの白子である。こんがり焼かれて、もうそれだけで中身のとろとろ具合が想像できる。こちらでは出始めの秋口には、白子のお造りも楽しめるそう。白子のお造り。う、う、う。食べてみたい・・・。唐揚げは、あっさり香ばしい。「とげ塩」というふぐの外側についているとげを天日で乾かし、焼いて、特別な塩とブレンドしたスペシャル塩をつけて食べる。さすがに、すみずみまでのこだわりが半端ではない。このあとはてっちりであるが、もうすでにおなかはパンパンである。が、ある程度てっちりをいただかなければ、雑炊の出汁が出ないのである。みんなで頑張る。

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 そして〆の雑炊。ふぐのエキスをたっぷりふくんで、これはコースを平らげたあとの次元の違うお楽しみであろう。幸せである。お腹もぱんぱんである。ぽんっ、と腹鼓を打つ。

 この日二回転するらしく、恐ろしい勢いでコースが出されたのだけが残念である。相棒は、部屋の椅子やじゅうたんにいっぱいしみがついているのが、嫌だと言っていた。圧倒的に年配のおじさま方が接待にも使うことが想像されるので、どうしても汁をこぼしたりすることが多いのであろう(笑)。

 次回は、もう少し遅めの時間にしてもらい、ゆっくりと落ち着いて堪能したい。

 店のホームページによると、一度でもファミリーに連れて行ってもらえば、自動的にファミリーになるのだそうだ。いずれにしても、この店、とらふぐを心から愛する人が集まるエクスクルーシブなファミリー組織であることは間違いない。マーケティング的に見ても、面白い趣向である。