大阪新地「キュニエット」
お疲れ様会と称して会社のコたち5名で新地に繰り出した。
選んだのは、ビルの3階にある隠れ家風フレンチ。
美味しいのに、気取ってなくて、くつろげる場所である。
連れて行くのは30代と40代。和食の堅苦しい雰囲気ではないし、居酒屋では物足りない。うーんどうしよう、どこ行こう。思いついたのは、新町か新地のイタリアン。でもなあ、新町は帰りがちょっと不便。新地はこの時間、同伴が多そうだなあ。5名くらいで食事となるといつも困ってしまう。カウンターでは店にも迷惑がかかるし・・・で、思い出したのである。
10年ほど前はちょくちょく行っていたのだけど、しばらく足が遠のいていたあのお店。思い起こせば、社員の女のコも連れて行ったし、プチ同窓会もしたし、遅めの時間にけっこう飲んで食べたこともある。店はこじんまりしていて、テーブルも5人だったらちょうどいい。当時はシェフとソムリエの二人体制で、サービスはソムリエの人が仕切っていた。サジェスチョンが明快でどのワインも間違いなかったし、シェフはスペシャルでパスタをお願いしても快く応じてくれていたことも思い出す。現在はソムリエ(後にオーナーだったと聞いた)が近所に新しい店を開いたので、シェフが新たにオーナーとなり続けているのだそうだ。前もってコースを予約しておいた。
ひと皿めは、飯蛸の赤ワイン煮。2月から3月にかけての明石の飯蛸は、頭の部分に卵をぎっしり抱えて絶品になる。これがまるでお米のようなカタチであることから、飯蛸と呼ばれているのだ。子供の頃からの大好物のひとつで、祖母は飯持ちと呼んでいた。煮るともっちりした独特の味わいになる。これを、フレンチ仕立てでいただけるとは思っていなかった。赤ワインと煮込むのも悪くない。
四角い皿には、鯛、ホタルイカ、剣先イカと、ホワイトアスパラや赤カブ、ルッコラなどの野菜がきれいに盛りつけられている。まるでソースを塗っているように皿にあしらわれた銀の模様と、ソースも含めた盛りつけのバランスがとてもよい。近頃のフレンチやイタリアンの流行のひとつに野菜のこれでもか攻撃があるが、これぐらいの量が私にはちょうどよいのだ。ホワイトアスパラの美味しいこと。お次は、帆立のムース。足赤海老と菜の花がのっている。ソースには海老の濃厚なエキスが入ってい、ムースの端正さに華やかさを加えている。こういうひと皿をいただくと、フレンチって足し算の妙というか、和食とは次元の違う組み立てだなと思う。いろんな素材を足していき、そこにソースを加えて完成する料理。総合力とかハーモニーを大事にする感覚、オーケストラみたいなものかしらん。
この時点でシャンパンが空いてしまったので(写真は撮り忘れる)、白をグラスでいただく。ボルドーのムート・ル・ビアンというビオワイン。有機栽培でブドウを生産し、野性酵母のみで醸造しているのだそうだ。リンゴやバニラの香りがしながらも、口に含むとしっかり丸みがある。四皿目のフォワグラのキャベツ包みにも、軽やかに合う。私は断然白ワイン派である。
ハッとするほど鮮やかな緑のソースの上の魅惑的な赤は、金目鯛。ころんと塊でほぐれる白身には、上品な脂がのっている。金目鯛、ほんとうは煮付けにしたり、軽く炙ったお刺身でいただくのが好きなのだが、こういう仕立てにしても金目鯛の美味はちゃんと感じられるというのが、この魚の素晴らしいところである。素材がよければ、どんな調理法でもOKということやね。メインは、鹿とフォワグラのパイ包み。フォワグラを鹿肉でくるんで、そのまた外側をパイで包むという三重奏。鹿と鵞鳥というどちらかと言えばワイルドな素材を、パイでワンクッション置いてお上品に仕立てた一品。ぱりぱり、さくさくの奥に、濃厚なしっとりを隠してる。ううむ、シェフはなかなか手だれであるなあ。デザートは濃厚バニラアイスクリームにたっぷりのベリーソースとマカロン。メインのパワフルなあと味を、甘味と酸味で和らげる。やっぱりフレンチって、デザートまで食べて完成する流れなんだと納得するコースであった。
旨いだけではない。ひと皿ひと皿誠実につくっているのがわかるフレンチ。女のコたちもたいそう喜んでくれた。気取らない雰囲気の中で、こういう本格的な美味をいただける店はなかなか得難い。